「……こうやって合宿で色んな学校の選手と交流してるとさぁ」
「千石さん、行儀悪いですよ」
食後、肘をつきながらお茶を飲む千石にたしなめるように室町が言うが、改める様子は全くない。
「他校生同士の意外な交友関係とかが見えてくるじゃない?」
「まあ、そうですね。青学の不二さんと六角の佐伯さんとか」
「そうそう。
こんな二人が仲いいんだー、とかよく思うんだけど今回一番意外だったのは……」
千石の視線の先を追った東方が「ああ、あれな」と納得したように言う。振り向いて確認した室町も同様に。
彼が見ている方向は給茶器がある場所で何人かの選手がいるが誰のことを言っているのかはすぐにわかる。
「あ、亜久津さんもお茶入ります?」
「あぁ? 茶なんかいるかよ」
「まあまあ、食後のお茶は大事ですよ。玄米茶とほうじ茶と緑茶、どれがいいですか?」
「いらねぇっつってんだろが」
「後詰まってるんだから早くしてくださいよ」
「……ほうじ茶よこせ」
亜久津と巴だ。
巴が物怖じしないのか、亜久津が巴には当たりが柔らかいのか。
女子選手なんかは基本亜久津のような人間は怖いんじゃないかと思うのだが彼女はむしろ積極的に亜久津に近づいている。
「まさかうちの亜久津と赤月さんがあんなに仲いいとは思わなかったよねー」
「確か都大会の時は随分と険悪な雰囲気だったけどなぁ」
当時を思い起こす南。
亜久津相手にひるまずかみついてくる彼女に内心ひやひやしたのでよく覚えている。
「だよなぁ?」
「亜久津も結局女の子には弱いってことなのかな?」
「いや、それは違うと思うけどな」
いいながらちらりと女の子――吉川に視線を向ける。
彼女と亜久津は犬猿の仲だ。
暴力こそ振るわないものの仲がいいとは到底言い難い。
「何か?」
「いや別に」
「あー、いいなぁ亜久津は。あんなに邪険にしてるのに女の子が寄ってきてくれてー」
「何言ってんだ」
「だってそうじゃーん」
「まあ、女の子が寄ってきているという事実は変わりないですが、どうも見た感じそういうイメージじゃありませんね」
室町が首をかしげながら言う。
確かにまあ色っぽい雰囲気はゼロに近い。
「それじゃどういう?」
「土佐犬、いやドーベルマンに豆柴がまとわりついているような……」
思わず南が噴出した。
続いて千石も。
「ちょ、室町それはいくらなんでも失礼だろ」
「いやー、それいい! ぴったり!」
「たしなめるか褒めるかどっちかにしてくださいよ」
くだらない。
どうでもいい話に盛り上がる部員たちに冷たい視線を送ると、吉川は一人席を立ち、自主練習に向かう。
コートに向かって歩いていると後ろから声がかけられた。振り返ると巴がこちらに向かって駆けてくる。
「吉川さん、昼休みの自主練習ですか?」
「そうだけど。……あなた、亜久津君と一緒にいたんじゃなかったの?」
「あれ、よく知ってますね。自主練するからって先に来ました。よかったら一緒にラリーやりませんか?」
走ってきたので軽く息がはずんでいる。
期待に満ち満ちた目でこちらを見てくるその表情。
「……このサイズだと豆柴というよりただの柴犬よね……」
「え? なんですか?」
「なんでもないわ。じゃあ行きましょう」
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