ラケットを握りしめ、ブン太はパートナーの方に視線をやった。
そこにいるのは、気心のしれた相棒――ジャッカルだ。
とはいえ彼とペアを組むのは久しぶりだ。
この合宿中、ブン太は別の相手とペアを組んでいたから。
はじめは相手に希望されたから。そして、他校入り混じった合宿なのだから別の誰かと組むのも面白いと考えたから。
そして今は。
「ジャッカル、全力で行くぜ。ただし」
手首にはめた黒いリストバンドを指し示す。
鉛の仕込まれたそれは時間の経過につれ、かなりの負荷をプレイヤーに与える。
「これは外さない。そして1セットもやらない。ワンサイドゲームで終わらせる」
「おい、いくら対戦相手がミクスドったって油断しすぎるとマズイんじゃないか」
ブン太の言葉にジャッカルが眉をひそめた。
相手はJr.選抜に選ばれる実力者なのだ。たとえ片方が女子で、監督推薦枠なのだとしても。
しかしジャッカルの言葉にブン太が揺らぐ様子はなかった。
「油断なんかしてねぇよ。全然」
リストバンドをつけた状態じゃ、相当不利だ。
そんなことは判っている。
それでも、自分は勝たなければならない。それも圧倒的な力の差を見せ付けた上で、だ。
そうじゃないと。
「……そうじゃないと、アイツの目は覚めない」
実力はある。
確かに、『天才』と言ってもいいのかもしれない。
しかし今の時点でそれを口にしてしまうようではもうお仕舞いだ。先はない。
ここで一度彼女の自信を徹底的に叩き潰してしまわないと、ダメだ。
「ふうん……珍しいな」
驚いたような顔でジャッカルがブン太を見る。
確かにそうだ。珍しい。
自分がこんな風に誰かの為に全力を尽くすなんて事、滅多にない。
本当は他人がどうなろうと知ったこっちゃないんだけどな。
……なんでか、アイツがつぶれんのは、見たくないんだよ。
ブン太は返事をする代わりにガムを一粒口に放り込むと、奥歯で強く噛み締めた。
そしてラケットを握り締める。
彼女に、まだ遥か上があることを指し示す為に。
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