ピッ ピッ ピッ
ホイッスルの音にあわせて軽々とバーベルが上下する。
リズミカルな動きを見ていると実際の重さはさほどでもないのだろうかと錯覚するくらいだ。
「そこまで! 休憩に入る」
待ちわびていた声に、深く息を吐くと巴は持っていたバーベルをゆっくりと地面に下ろすと隣にいた銀に声をかけた。
「石田さんのバーベルってそれすっごく重いんですよね?
ちょっと持ってみてもいいですか?」
「ええけど、無理して腕いわさんようにな」
両腕で掴んで持ち上げようとするが、バーベルはぴくりとも動かない。
力を込めて足を踏ん張って見ても結果は同じだ。
「そのへんにしとった方がええ」
銀にたしなめられ、しぶしぶバーベルから手を放す。
入れ替わりに銀がやはり軽々とバーベルを持ち上げると端に移動させる。
同じものだとは思えない。
「すごいですねえ、石田さんは。
それにプラスして身体に重りもつけてるんでしょう?」
「当たり前や。師範はウチで一番の力持ちやからな! わいもかなわんもん」
自分のことのように自慢する金太郎もまた、小柄ながらかなりのパワーを誇る事を巴は知っている。
一方巴は中々パワーが上がらず、試合中相手のボールにラケットを弾き飛ばされる事もしばしばである。
「私もリストバンドの鉛とかもっと増やした方がいいのかなー」
溜息混じりに言うと、銀が軽く巴の頭をなでた。
「あんまり無理はせん方がええ。
巴はんはおなごなんやし、いたずらに負荷をかけても身体壊すだけやろ」
「でもそれじゃあいつまでたっても弱いままです」
「急には力はつかんけど、徐々には身についていくやろ。
それに、わしがこんなん言うんもなんやけどテニスは力だけやないんやから、他の部分を延ばしたらええ」
「……そうですね」
ゆっくりと諭されて巴がはにかむように笑顔になった。
「なーなー師範、わいは?」
「金太郎はんもまだ身体が出来上がる前やからあんまり無理はせんほうがええ。
心配せんでも大きいなったら自然に力もあがってくやろ」
「ほんま!?」
「……なんや、銀さんえらい巴とええ雰囲気になってへん?」
「つーか、あれは金ちゃん含めて子供に懐かれてんのやと思うけど」
「で、先輩らはなんで物陰からこそこそ覗き見してんのですか」
|