『勝者は……俺だ』
自由時間、娯楽室。
巴が右手を挙げて不敵な笑みを浮かべる。
ドヤ顔の巴に、堪えきれず忍足が吹き出す。
それを皮切りに大爆笑が起きた。
「あっはっは……! ヤバイ、ちょー跡部!」
「いやほんますごいわ。声とか全然似てへんのにちゃんと跡部やねんもん」
何をしているかというと跡部のモノマネである。
向日や忍足と話していた時に流れで巴が跡部の仕草を真似たら随分上手いとおだてられて今の状態というわけだ。
忍足の言うように男女の性差があるので当然声音等が似ているわけでは全くない。ないのだが、細かい仕草を上手く再現しているので雰囲気が出ている。
そして、持ち上げられると持ち上げられただけ調子に乗るのが巴である。
『行け、樺地!』
指を鳴らす仕草をする。
と、その時背後で声がした。
「随分楽しそうじゃねえか、アーン?」
「ウス」
その声に、向日が凍り付く。
もちろん、そこに立っているのは樺地を従えた跡部である。
腕を組んで見下ろす跡部に、しかし巴は物怖じしない。
「はい、跡部さんのモノマネやってたんです!」
「ハン、真似ったってテメェ、指鳴らせてねえじゃねーか」
「……巴の奴、あっさり言い切りやがったぜ……」
「跡部も跡部やで。つっこむ所はそこかいな」
向日と忍足がひそひそと交わすそんな会話は耳に入っちゃいない。
「鳴らないんですよ」
「やり方が悪いんだろ」
「だって、こうでしょ?」
巴が中指と親指をこするが、スカスカとこすれる音がするばかりだ。
しばらく黙って見ていた跡部がしびれをきらす。
「違う、こうだ」
右手を挙げる。
小気味いい音が鳴る。
見ながら巴も同じようにやるが、やはりスカスカと空振りを繰り返す。
「やっぱり鳴りませんよ。跡部さんの指が特殊なんじゃないですか?」
「だから、やり方が悪いんだって言ってるだろ」
言うと同時に巴の手を掴む。
見ていた向日の目が見開かれる。
「ほら、指の向きがおかしいんだろ」
「えー、違いがわかんないですよ」
巴はもちろん、跡部もまったく寸借することもなく密着したまま指の鳴らし方を教授している。
「……あいつら、さあ……」
「言いたいことはわかる。わかるけど岳人、言うだけ無駄や」
「ウス」
珍しく、樺地も忍足に同意を示すのだった。
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