ウワサ話・2






「僕達スクール組はまあ、一緒に練習してるから分かるんだけどさ」



 木更津の言葉に観月がピクリ、と片眉を上げる。
 その様子から察するに木更津の言わんとすることは予測出来ているらしい。


「赤月ってなんであんなに他校生と仲いいんだろうね」


 木更津が指差した方向には何故か各校部長と談笑しながら食事を取る巴の姿がある。
 正直あのメンバーの中には入りたくないと同学年の木更津でも思うのだが、巴には気後れとかいう単語は存在しないのだろうか。


「同感だーね。
 別に青学と仲が悪いわけでもないけどよく他校生とつるんでるだーね」
「そういやそっすね」
「……別に、この合宿は学校単位ではないんですから他校生と交流していても不思議はないんじゃないですか?」


 適当に流せばいいのにそうやって突っかかるからなおさら気にしているのが分かるんだけどな、とその場にいる全員に思われている事には気が付いていないようだ。



「そうは言っても一年であんなに他校上級生と一緒にいるヤツなんていないよ」
「そういえば、赤月さんて他の学校の選手にも結構人気あるみたいですしね」
「な……!」


 早川の言葉に思わず観月が声を上げる。
 しかし 他の学校の選手に『も』の意味には気が付いていないらしい。

「それ、本当だーね? さすがに疑わしいだーね」
「柳沢先輩じゃないんだから私はそんなくだらない嘘つきませんよ。
 この間女子部屋でちょっとそういう話になったんです」
「……へー……」
「くすくす、みんな趣味悪いなあ。で、具体的には誰?」
「それはさすがに口外できません」



 肝心なところで早川は口を噤む。
 観月はそ知らぬふりをして持っていたお茶をあおるが、予想以上に熱かったらしく一人で悶えている。
 すでに取り繕うのは不可能だという事を本人だけがわかっていない。


「でも、跡部とかだったらそれこそ金にもの言わせて氷帝に転校させるとかしそうだーね」
「氷帝といえば榊コーチが巴引き抜こうとしてるとか聞いた事あるけど」
「マジっすか!?」



「そんなことさせるはずないでしょう!
 巴くんが転校するとしたら聖ルドルフ以外ありえませんよ。前々からボクが……」


 つい声を荒げた観月に、他のスクールメンバーが面白そうに観月を見る。
 おちょくられている。
 そしてそういうタイミングを決して外さないのが彼女だ。


「こんにちはー。皆さん今からゴハンですか? 私は今終わったところなんですけど」
「巴くん……!」
「はい。どうかしたんですか? 観月さん顔が赤いですけど」
「な、なんでもありませんよ! これ以上貴方達のバカバカしい話に付き合うヒマはありませんので練習に戻らせてもらいます!」


 早口で言うと足早にその場を去っていく。
 首をかしげる巴と、苦笑するスクールメンバー。


「観月さん、どうかしたんですか?」


 状況が飲み込めず、不思議そうに尋ねた巴に木更津が笑顔で答えた。




「うん、思春期なんだよ」







青学に比べてルドルフは単純明快です。ええ。
そして早川さんはそう易々と女子間の情報を流したりはしません。

初出 2010.11.24.

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