「よう、赤月」
「あ、忍足さん」
「……合宿ももう終盤やな」
「そうですね。なんだかちょっと寂しいです」
休憩時間、謙也に声をかけられた巴がそのまま他愛ない話を続けている。
「不自然! めっちゃ不自然やって!」
「つーかさっさと言えっちゅうねん! まだるっこしい」
「……まあ、謙也はんは奥手やからな」
そして、それを物陰から見ている人影が……四人。
「ナニやってるんですか先輩ら」
「しーっ! 気付かれたらどうすんねんアホ!」
他人の振りをするかどうか少し悩んだが好奇心に負けた財前が背後から声をかけると、一氏に慌てて口を塞がれる。
結果、別に望んでもいないのに先輩達と一緒にどうでもいい光景を覗き見するハメになる。
「……で、結局なんなんですか。
赤月と忍足先輩が喋っとるんなんか珍しくもないやないですか」
「ちゃうちゃう。
雑談やなくて、申し込みやねんて」
「申し込み?」
白石の言葉に一瞬意味がつかめず眉を寄せた財前だったが、すぐにその答えに行き着く。
Jr.選抜合宿終盤の今、申し込みといえばおそらく。
「……忍足先輩、ミクスドで出るいう事ですか」
「そゆこと。まあ、パートナー次第やけどな」
「せやけど……」
視線を再び謙也と巴の方に向ける。
話題は『合宿も終盤』という話からいつの間にか『関西と関東の雑煮の違い』に変わっている。
大きくテニスから反れているような。
「あきらかにそんな話には向かってへんみたいですけど」
「せやから心配で見てるんやん。
ええ加減赤月にパートナー申し込みせえへんかったら試合目の前やっちゅうのに」
「中々言い出せないオトメゴコロ、わかるわ〜」
「いや、謙也も小春もオトメちゃうから」
「だから先輩キモいから身をよじらせんといてください」
「小春はキモないわ!」
「だから一氏先輩、首しめんといてくださいって!」
「やかましわお前ら!」
「……そういや、話は変わるけど巴はもう大会で誰とペア組むんか決めたん?」
「いえ、まだですけど……」
会話の途中、巴が喧騒に引かれる様にそちらを向く。
目に映ったのは団子になってなにやらモメている四天の面々。
「何かもめてるみたいですよ、四天宝寺の人たち」
「ほんまやな。
まあ大したこっちゃないやろけど。いつものことやし」
「仲いいですね、皆さん」
「そうかぁ?」
そうこうするうちに休憩時間が終わる。
会話を中断させて、選手達はそれぞれにコートへ戻っていく。
……結局、四天宝寺のメンバーもペア申し込みの妨害の一端を担っているのである。
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