早朝でまだ人の姿もまばらな中、隅のコートの一角で、打ち合いをしている巴と木手の姿が見える。
あたりにリズミカルな球を打つ音が響く。
そして、コートから少し離れた生垣からのぞく人影が、いくつか。
「ほれ、嘘じゃなかったさ」
「この目で見ても信じられんねぇ……」
「慧くん、横はみ出てないか」
「そういう知念の方がはみ出てるさ」
比嘉の選手である。
木手が女子と練習してるという事実を確認する為こうやって覗きに来た訳だ。
遠目に二人を眺めながら平木場が呟く。
「けど、なんか永四郎不機嫌そうな顔じゃねえ?」
「ばーか。
ありゃポーズだって」
「そうかぁ?」
「やーはわかってないなぁ。赤月見りゃわかんだろ」
「何がですか?」
「だから……わぁ赤月!?」
「おはようございます。
けどこんなところで何やってるんですか?」
異常な驚き方をする甲斐に、巴がきょとんと首をかしげる。
雑談に夢中になるあまりに隠れていることも忘れていた。
そして、巴に気付かれたということは……。
「本当に、こんな場所で練習もしない割には早起きしてまるで隠れるように、何をしていたんでしょうね」
巴の背後から恐ろしく落ち着いた声。
そちらを見るのが怖い。
が、怖いものほど見ずにいられないのが人情である。
恐る恐る視線を移動させ、悲鳴をあげそうになった田仁志の口を凛が慌てて塞ぐ。
「わ、わったーも練習場所探してただけ」
「そ、そうそう。じゃ!」
逃げるようにその場を離れる。
いや実際に逃げ出したのだが。
全員が全速力で木手の視界から逃れると示し合わせたようにため息をつく。
「怖かった〜」
「顔にハッキリ“殺す”って書いてあったさー」
口々に言いながら座り込む。
「な、凛」
「なんやさ」
「あれが、本当の『不機嫌な顔』さー」
知念の言葉に、再びため息をついた。
「…………よーーーーーーーっく、わかった」
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