テニスを始めて一年目、その頃自分はどんなだったろう。
倒れこんだ巴の寝顔を見ながら手塚はそんな事を思う。
もうずっと昔のようだが、ただボールを追うのが楽しくて、楽しくて、他には何もなかったように思う。
勝っても負けても楽しくて、毎日が新鮮で。
ただただ純粋に“テニス”に夢中だった。
巴を見ているとその頃の自分を思い出して、一緒にコートに立っていると、自分もその頃の自分に戻ったようで。
だから、最後の夏を彼女とのミクスドにかけた。
けれど、それは彼女の為には本当に良かったのだろうか。
合宿中に手塚が見た巴は、夏の頃と同じように全力でテニスに向かっていたように見えた。
だけど半年前の巴は、“自分のテニス”なんて形のないものに捕らわれてはいなかった。
笑顔が減ったように思うのは自分の気のせいなのだろうか。
手塚にはわからない。
秋と冬の間の巴を、手塚は知らない。
電話口の彼女はいつも楽しげだった。
それが空元気でないと言い切れるほど手塚は彼女を解っている自信がない。
手塚は自分の最後の夏を巴に懸けた。
しかしそれは同時に巴の最初の夏を奪い去ったに他ならない。
ラケットを握って数ヶ月の彼女を公式試合に引っ張り出す。
団体戦ということもあるがそのまま全国大会まで一直線に駆け上らせた。
その経験によって得たものも多いだろうが、失ったものもまたあったのではないか。
潜在能力が高いからこそ、もっと慎重に育てる必要があったのではないか。
もっともその時はそんな事は思いもしなかった。
あげく頂点であっさりと手塚は巴の手を放したのだ。
一年の初心者にして、次代の青学を担う一端までのしあげられ。
秋から春までの間の巴がどうだったかは試合結果程度しか手塚は知らない。
手塚のパートナーであったこと。
全国大会に出場したこと。
そして今、監督推薦枠とはいえ、Jr.選抜選手として合宿に参加していること。
そのすべてが、重圧だったのではないか。
今更になってからそんなことに気がつく。
けれどそこまでわかっていても手塚は再び巴とペアを組んでいる。
身勝手に放し、また掴む。
エゴだとわかっていとも尚、巴に固執している理由は当初のものだけではないのかもしれない。
この手を放せないのなら、ならばせめて。
肩に背負う荷物を軽減できるよう、彼女が目指す場所にたどり着けるよう自分もできる限りのことをしよう。
巴が壊れてしまわないように。
この手が本当に離れてしまわないように。
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