「先輩、ちょっとええですか」
自由時間、だらだらと喋っていると呼び出しを受けた。
財前だ。
あまり積極的に近づいてくるタイプではないので珍しい。
「お、なんや告白か」
「きゃー!」
「先輩らは呼んでませんから」
下らない冷やかしをする他の連中は相手にもしない。
いつも通りである。
しかしわざわざ呼び出すということは人に聞かれたくない話か。
それでいて話をしていた、という事実は知られていてもいい程度の。
そう予測しながら白石は席を立つ。
「どないしたん?」
「赤月のことなんすけど」
なるほど。
昼間の練習試合後になにやら言い争っていた。
「なんや煮詰まっとるみたいやな」
「まあそうっすね。
なんや頭ん中わやくちゃになっとるみたいで俺がなんや言うたら逆ギレされまして」
所謂スランプという奴だ。
練習での動きは決して悪くないし、真面目にやっている。ただそれが試合になるとどうも動きが悪くなる。
「そんで?」
「先輩やったらああいう相手の扱い得意そうや思て」
「……それはスランプの選手の扱い、いう意味なんか女子の扱いいう意味なんか気になるところやねんけど」
「両方ちゃうんですか」
堂々と断言される。
別に否定する気もないが。
しかし珍しい。
財前が他人を気にかけてあまつさえ白石にそれを相談までするとは。
晴天の霹靂とはこのことだ。
「どないしたんですか」
思わず顔が弛んだのを見とがめられた。
「いや、えらい赤月さんに肩入れしとんのやなぁ思て」
「成り行き上です」
「うちの後輩らにもそんくらい気ぃかけたってくれたらありがたいんやけどな」
「気ぃかける必要ないですやん」
じゃあ、巴は必要があるのか。
青学のメンバーを差し置いて。
おそらく特別なのだという事に財前自身は気付いているのかいないのか。
「だからさっきから何ニヤついとんですか気持ち悪い」
「いや、なんでもない。
まあ今は何言うても耳に入らんやろうし、様子見とったったらええんちゃうか。
くれぐれも無茶はせんようによう見ときや」
完全に他人事な白石のセリフに財前が少し不満そうな顔をする。
「先輩はなんもしてくれへんのですか」
「せえへんよ。それはお前の仕事やろ」
「なんでですか」
「なんでも、や」
白石は苦笑すると腑に落ちない様子の財前の肩に手を置いた。
彼女は、お前のパートナーなんやから。
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