ケジメ






 今日も、勝ってしまった。


 通常ならば勝利する事に文句などあろう筈もないのだけど、ジャッカルの胸中は複雑だった。

 合宿中、ジャッカルとペアを組んでいる相手――巴は合宿中の練習試合でまだ一度も敗北していない。
 しかし彼女にとって、それはあまり喜ばしい事だとはジャッカルには思えない。
 天性のものがあるのか、試合中の彼女の動きはめざましいものがある。
 勘もいい、判断力もある。  しかし、どうにもこうにも危ういのだ。
 一歩間違えればあっという間に崩れ落ちる砂上の楼閣。
 それが今の彼女である。


 ただ試合を見ているだけでは、同じコートに立つだけでは、ひょっとしたら分からなかったかもしれない。
 けれど、連日共に練習をしていればそれは明確にわかる。
 集中力にムラがある。
 基本的練習になると特にその傾向は顕著だ。
 そして、基礎練習を怠った者が真に強くなれるかと言うと、それは絶対にない。
 土台の不確かな上にいくつ技術を積み重ねても、安定した力にはならない。
 一番厄介なのは、彼女自身がそれを自分のプレイスタイルだと勘違いしている事だ。
 耳触りの良い言葉でごまかしても現実は変わらないのに。


 負けてしまえば。
 試合で完全な敗北を喫してしまえば、巴自身もその間違いに気付くだろう。
 そう思っていたけれど、それすらもうまくいかない。
 実際問題、練習試合とは言えジャッカルだって負けは嫌だ。
 結果、今日までジャッカルと巴は負け知らずの状態、というわけである。


 しかし、それももう限界だ。
 嫌われるのがいやで、問題から目をそむけた結果がこれだ。
 これでは彼女が潰れていくのをただ眺めているのと変わらない。

 ケジメを、つけなくちゃな。


 たとえそれで嫌われてしまうような結果になったとしても、このまま現状維持を保っているよりはずっといい。
 大丈夫、この選択は間違ってない。


 そう自分に言い聞かせると、再びラケットを握り締め、ジャッカルは巴の側へ歩み寄った。 







どこまでもジャッカルが不憫です。

初出 2010.6.26.

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