「はあ……」
溜息がでる。
練習も、試合も。全てがうまくいかない。
一生懸命やっているのに、どんどん周りにおいていかれる。
これが、自分の限界なんだろう。
気力が萎えてしまった。
これから、どうしよう。
このまま、榊に追い出されるのを待つのか、それとも自分から出て行くか。
「ふわあぁ……」
そんなことを考えていた巴の耳に、場違いにのんきなあくびが聞こえた。
誰もいないと思っていたのに。
振り返ると、巴のすぐ後ろに彼は座っていた。
「き、金太郎くん!?」
「……あ、終わった?」
目をこすりながら尋ねてくる金太郎の言葉の意味がサッパリわからない。
「終わったって、何が」
「えー、なんか白石達が『今はそっとしといたり』て言うから待ってたんやけど』
……白石さん。
気を遣ってくれるんだったら、アドバイスではなく彼をどこかに連れて行ってくれる方が……。
そんな事を思ってしまった後で巴は金太郎に言わなければならない事があった事に気が付いた。
「えーと、金太郎君」
「なに?」
「ごめんね」
後ろから巴の隣に移動していた金太郎は巴の言葉に、きょとんと首をかしげる。
「何が?」
「だから……試合、負けちゃって」
巴のパートナーは金太郎だった。
だから、敗北を味わったのは巴だけではない。
自分が不甲斐無いせいで金太郎にまで悔しい思いをさせてしまった。
シングルスなら、きっと金太郎は負けなかったのに。
そう思っての巴の言葉に、金太郎は違う言葉を投げてきた。
「なあ、巴はなんでテニスやってんの?」
「え」
青学ではマネージャーにはなれなかったから。
竜崎コーチに誘われたから。
京四郎にはめられたから。
……違う。
それは、すべてきっかけにすぎない。
テニスをやっている理由、続けている理由。そして、今こんなに思い悩んでいる理由。
その答えはひとつだ。
「……好きだから」
「せやんな」
ぽつりと呟くような答えに、金太郎は大きく頷いた。
「あんな、わい、ホンマはダブルスってあんま好きやないねん。
シングルスみたいに自由に動けへんし、誰かと合わすんって苦手やし」
「うん」
金太郎が何を言いたいのか分からず、ただ相槌を打つ。
いかにもシングルスプレイヤーの金太郎がダブルスに付き合ってくれているのは、正直巴も意外だった。
「せやけど、巴はなんか楽しそうやったから。
なんやおもろそうにプレイしてるから、巴とやったらダブルスもええかなって」
けど。
金太郎の眉が少し下がる。
「昨日も今日も、巴は全然楽しそうにないんやもん」
「それは……」
勝てないから。
思い通りのテニスが出来ないから。
「絶対勝たなあかん?
負けたら全然おもろない? 巴のテニスは勝つためだけのテニスなん?」
なんでテニスやってんの?
好きだから。
好きだからだ。
負けても、勝っても、それは結果にしかすぎない。
楽しむ、ということを忘れていた気がする。
そもそも負けるのなんて当たり前だ。
自分は一年で、テニス歴も一年。
負けてもいいとは思わないけど、周りは全国クラスの選手ばかりで、監督推薦枠の自分は初めから底辺だったのだから。
「そっか……」
こんなところで座って落ち込んでるヒマなんてない。
限界だとか言い出すほど、まだ何も出来てない。
どうしていいかわからなくなって座り込んだ時と対照的に、元気よく立ち上った。
毎日テニスばかりやっているはずなのに、随分長い間ラケットを握っていないような感覚だ。
「金太郎君、私、テニスが好きって事ちょっと忘れちゃってたみたい。
けど、金太郎君のおかげで思い出せた。ありがとう」
「そ?」
「うん、もう大丈夫。
金太郎君……まだ、ダブルス付き合ってくれる?」
金太郎は満面の笑みを浮かべると、跳ねるように立ち上がり、巴に手を差し出した。
「もちろんや!」
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