「レディ……ゴー!」
掛け声と共に強くかかる負荷に巴は必死の形相で持ちこたえようとする。
息も止らんかというくらいに力を込めているのに、巴の両腕は段々と傾いていく。
腕相撲だ。
男子選手達がやっているのを見て、自分も挑戦したいと名乗りを上げたのだが、甘かった。
片手対両手というハンデ、そして相手は同じ一年の金太郎とあってそれなりにいけるのではないかと思ったのだけれど、わずか数秒で巴の右手の甲がテーブルの面に当たる。
「あー……完敗だー……」
「ほら、わいの勝ちやろ?」
大して力を込めた様子もない金太郎を巴が恨めしそうに見る。
「うう、石田さんとかならともかく金太郎君にも敵わないなんて……」
「あたりまえやん。巴、見るからに筋肉ついてへんねんから」
そう言うと、おもむろに金太郎が巴の二の腕を掴んだ。
「ほら、フニャフニャ」
「な……!」
巴が何か言うより先に、飛び出してきた謙也が金太郎の頭をはたく。
「アホ、その手ぇ放せ!」
「いったいなぁ、なにすんねん謙也!」
「金太郎はん、おなごの手足は気安う触るもんやないで」
「何で」
「なんで、て……」
「なんでもや!」
謙也と銀の二人がかりで説教をくらい、金太郎が口をとがらせる。
テーブルの反対側では巴が同じように不機嫌な顔を浮かべている。
「堪忍やで、巴はん」
「いくらなんでも失礼ですよ!」
「金ちゃんはガキやからなぁ」
「私だって毎日筋トレしてるんですから、腕フニャフニャなんかじゃないですよ!」
真顔で言われ、謙也も銀も反応に困る。
そっちかい。
結局のところ、金太郎も巴も同レベルということを認識した二人だった。
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