「赤月、少しいいか」
ミーティング後、柳に声をかけられた。
自覚はないが巴の発想はいささか他者と違っているらしく、よくこのようにミーティング後意見を訊かれたりする。
ノートを広げる柳を見て、不意に巴は切原との先日の会話を思い出した。
(……やっぱり、開いてるのか閉じてるのかよくわからない……)
今ノートを開いてるんだから、まあ見えてはいるのだろう。
けれどこちらからでは柳のまぶたや睫毛は見えても目は見えない。
「……赤月」
この近距離なら見えるかと思ったけれど中々そうもいかない。
(それにしても結構睫毛長いなぁ)
だからなおさら目が見えないのか。
「赤月」
(けど切原さんも開いてるのかどうかわかんないってことはよほど近くで見ないとわかんないって事に……)
「赤月」
何度目かの柳の呼び掛けでやっと巴が我に返る。
いつの間にか人の話そっちのけで顔を凝視していた。
「顔が近い。それと、人の話はちゃんと聞け」
「す、すいません!」
静かに諭されてさらに羞恥が増す。
顔から火が出るとはこの事だ。
「人の話も聞かずに何を考えていた」
「い、いえ別に何も!」
慌てて首と手を横に振る。
冷静に考えれば何も考えずにぼーっと人の顔を見ているのはそれはそれで怪しいのだが。
そして、更に言えば相手は柳である。
「……大方、俺の目が開いてるかどうか気になったといったところだろう」
「いえ、まさかそんな!」
切原は確か、直接柳に訊ねてどんな目にあったと言っていたか。
再びブルブルと激しく首を振る。
その、妙なほどの過剰反応に、ぴくりと柳の眉が動く。
「赤也に、何か吹き込まれたか」
「いえっ! 本当に、何も考えてません!
ましてや切原さんに何か聞いたりなんて、全くもって全然ないですから!」
しつこいようだが、相手は柳である。
「……ひとつ忠告しておくが、赤也を庇いだてすればする程赤也の立場が悪くなるだけだぞ」
「えっ、なんで」
所詮、柳相手に巴が何か隠し事をしようとするのは不可能なのである。
そして結局のところ、やっぱり実際のところはわからないままだ。
「モエりん、いっそ乾先輩に聞けばいいのに」
「……あ!」
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