夕食も済んで人気のあまりない食堂の、さらに隅で隠れるようにして陣取っている人物が巴の目に留まった。
切原と裕太だ。
この組み合わせはいささか珍しい。
興味を持って近づいてみるも、集中しているのか巴に気付く様子は無い。
雑誌を読んでいるようだ。
「なに読んでるんですか?」
「うわぁぁっ!」
バサッ!
放り投げられた雑誌が宙を飛び、テーブルの上に着地する。
ここまで驚かれるとは思っていなかったので巴も肝を潰したが、切原と裕太の動揺はそれ以上である。
一瞬後に、声をかけてきたのが巴だとやっと認識し、胸をなでおろす。
「なんだ、赤月かよ……ビビらせんじゃねーよ!」
「あー、心臓止るかと思った」
「ビックリしたのはこっちですよ!
……そんなに見られたらまずいもの、見てるんですか?」
テーブルの上の雑誌に目をやるが、ただの少年漫画雑誌である。
確か河村が同じものを買っていたような気がする。
これが成人雑誌だというならまだその動転ぶりもわからないではないのだが。
「先輩がこえーんだよ、こういうの読んでっと」
「マンガ読んじゃダメなんですか?」
「少なくとも、合宿中にまで読まなくてもいいだろって事だけどな」
まるで同じ学校の部員かのように揃って溜息をつく。
おおよそ、誰に言われているかは見当がつくが同時に他の先輩は絶対読んでるだろう。と思われるのだが。
「じゃ、一週間くらいガマンしちゃえばいいのに」
「バカ! そんなわけにいくか!」
「一週飛んだら話がわかんなくなるじゃないか!」
揃って反論されるが、そもそも週刊のマンガなんて読まない巴にはピンと来ない話だ。
「そういうもんなんですか」
「そーゆーもんなんだよ!」
「へえ、わざわざ隠れてコソコソと、そこまでするもんなんですか」
「そうそ……」
頷きそうになって、裕太が声の主に気付き硬直する。
いつの間にやら背後に観月が微笑を浮かべて 立っている。
口元は笑っているけれど目はちっとも笑っていないのが怖い。
「み……観月さん、あのですね」
「はい、ゆっくり言い分を聞きましょうか、裕太君?」
それでは失礼します、と優雅に頭を下げつつ裕太を引き連れて観月が退場する。
「うわ〜、怖……」
「他人事じゃないぞ、赤也」
「げ! 柳先輩! いつのまに!」
「お前たちが大騒ぎしているから、何をしているのかと思ってな」
横に腰掛けて静かにパラパラと雑誌のページをめくる。
「別に読むなとは言わないが、その前に今日のノルマは果たしているんだろうな、赤也」
「はい! すぐに消化してきます!」
直立不動で敬礼するとあっという間に走り去っていく。
聖ルドルフも立海もとっくの昔に三年生は引退しているはずなのだが未だにガッチリと頭を押さえつけられているとはいささか気の毒である。
「何や、いまの?」
「あ、金太郎君」
入れ違いにやってきた金太郎に、ふと浮かんだ疑問を巴がぶつける。
「そういえば金太郎君もマンガ好きなんだよね?」
「好きやけど?」
「マンガ雑誌は、買わないの?」
巴の質問に、金太郎はにいっと笑う。
「あれは発売日の日の放課後に貰うもんやで?」
|