「白石さん、ちょっと聞いていいですか?」
偶然風呂上りの白石に会った巴は、少しだけ気になっていた事を尋ねるべく口を開く。
大浴場から出てきたばかりだというのに、白石の左腕には既にキッチリと包帯が巻かれている。
一人で巻いているのだろうか。器用だ。
「ええよ、なに?」
「その包帯って、いつも巻いてるんですよね?」
「そや。せやなかったら金ちゃんにバレてまうやん」
「だったら、包帯の下って日焼けしてなくて真っ白だったりするんですか?」
今は日焼けがどうとかいうような季節ではないが、一日中外でテニスをしているのだから、選手達は程度の差こそあれ日に焼けている。
特に男子選手は一部を除いて日焼け対策などしているはずもないのでさらに顕著だ。
突拍子もない巴の質問に少々面食らったような顔をした白石だが、すぐに苦笑しつつ肯定の答えを返す。
「白いよ。左と右やったら全然色ちゃうで」
「そうなんですか! ちょっと気になります」
白石としてはそんなもん気にしてどないすんねん、と思わないでもない。
やはりこの少女、ちょっと変わってる。
「ほなちょっと見てみる?」
「え、いいんですか? 金太郎君に見つかったらまずいんじゃ」
あたりを見回しながら声を潜めて巴が言う。
なんのための包帯かといえばただその為だと知っているので、さすがにそれが自分のせいでぽしゃってしまっては申し訳ない。
「大丈夫やろ。たとえ見つかっても全部ほどくわけちゃうし、キワの辺チラっと見たらわかるやろ?」
そういわれてみればそうである。
ならば、とお言葉に甘えることにし、白石が包帯止めに手をかけた、その時。
「ストーップッ! ちょっと待った!」
突然の大声に遮られた。
驚いて振り向くその間に白石と巴の間に割って入ったのは金太郎――ではなく、切原だった。
「え、切原さん!? どうかしたんですか?」
何事か理解できずに面食らう巴の眼前に切原が人差し指を突きつける。
「どうかした、じゃねえよ!
オマエ知らないのか、白石さんの手は毒手っつって触れたら死んじまうんだぞ!」
「…………」
「…………」
今、なんと。
「切原くん、それ、誰に聞いたん?」
「…………仁王さんじゃないんですか」
なんとも微妙な空気をもてあましつつ言った白石と巴に、切原が首を振る。
「幸村元部長」
その後、白石に問われた幸村はにっこりと優雅な笑顔で「バカな子ほど可愛いって言うよね」とのたまったそうである。
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