「よ、赤月」
自販機でジュースを買っていると、背後から声をかけられた。
振り向いた巴の目に映ったのは、特徴ある包帯。
「白石さん、こんばんは!」
会釈すると軽く手を上げて応え、ポケットに入れていたむき出しのコインを自販機に入れ、ジュースを買う。
ゴトン、という重い音をさせて缶飲料が取り出し口に落ちる。
かがんでそれを取り出した白石の髪はまだ少し湿っている。
「ひょっとして、今お風呂行ってきたところですか?」
「うん、そうやけど」
「随分遅いですね」
まだ過ぎてしまってはいないが入浴時間終了ギリギリだ。
あまり遅いと館内の従業員に急かされるのでせわしないし、気分的にもあまりくつろげない。
そう思って言った巴の言葉に、白石は左腕に巻いた包帯を指し示して苦笑する。
「ほら、金ちゃんがおるとこやったらこれ外せへんし」
確か毒手、だったか。
いかにもなわざとらしい嘘八百を金太郎が信じ込んでいる事は知っているが。
「……白石さん、もう部活は引退しているんですからそこまでして金太郎君を騙さなくっても」
多少呆れたような巴に、白石は人の悪そうな笑みを浮かべた。
「せっかくやし、どこまで騙しきれるか試してみたいやん」
「そんなもんですか?」
「そんなもんやで」
それだけの為に、毎日包帯を巻いて、仕舞い風呂で。
手間がかかりすぎる。
酔狂もここまでくると立派なものかもしれない。
「それに、これ止めたらストッパーがなくなったあのアバレが何しでかすかわからへんで?」
最終的に白石が止めていても、金太郎は日々騒動の中心だ。
それが、歯止めがなくなったとしたら。
「……それは、困った事になるかもしれませんね」
「やろ?」
しかし、その時はその時で白石さんは周到に何か別の手を用意していそうな気がしますけど。
そう言うと、白石は肯定も否定もせず、また口の端を吊り上げて笑った。
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