「全日本! ファイッ!」
「オーッ!」
真田の掛け声にあわせて声を出しながら砂浜を走る。
Jr.選抜合宿のランニングは厳しい。
男子に合わせて走ること自体は青学でも同じなのでさほど苦にはならないのだが、如何せん走っている場所が問題だ。
砂浜。
初日こそ海のそば、という立地に胸をときめかせたものだが現実はすぐに巴の目を覚めさせた。
別に海が見えるのはいいのだ。むしろプラス要素。
問題は砂浜だ。
土やアスファルトと違って衝撃を吸収してしまうので足にかかる負担が比じゃない。
そして靴にまとわりつく砂。走りにくいことこの上ない。
もちろん、それだからトレーニングになるのだということは重々承知だが。
砂浜を走ったことなんて当然なかったから戸惑ったものの、何度か回数を重ねるうちに、次第にコツがつかめてきた。
なので、今までは集団の後列についていくのがやっとだったけれど、少し歩幅を広げて前に進んでみる。
掛け声にあわせて、だけど少しだけさっきよりも前へ。
しかし巴の位置が悪かった。
すぐ手前で走っていたのは浪速のスピードスター、忍足謙也。
背後から誰かに横に並ばれたことにいささかむっとした謙也が負けじと身体を前にやる。
半歩分前に出る身体。
生来の負けず嫌いは巴も同じだ。
やはり同じようにペースを速める。
再び横に並んだ巴を引き離すようにまた謙也がスピードを上げる。
巴が追いつく。
謙也が突き放す。
そのあとはもう、推して知るべし。
「忍足! 赤月! 何をしとるか!」
真田のカミナリが直撃するまで競い合った二人は息も絶え絶えである。
「わかっているとは思うが、ランニングは徒競走ではないぞ」
手塚も眉をひそめて指摘する。
ちなみに、自分の学校の部員を注意してしかるべきはずの白石は笑って傍観者を決め込んでいる。
不幸中の幸いなのはあまりに息が切れて、真田と手塚の双方から同時にお説教、という恐怖を余り感じなかったという事だろうか。
「あー、スニーカー砂まみれ……」
溜息をつきながら脱いだ靴を引っくり返して中に入り込んだ砂を落としていると、同じように靴をさかさまにしている謙也と目が合った。
「お前がアホなことするから、俺まで怒られたやん」
「ムキになって走り出したのは忍足さんじゃないですか!」
「……まだやってる」
「アイツのせいで俺まで怒られとる気分や」
喧騒を聞きながら、忍足侑士が呆れたように言う。
「けど、ランニングで謙也とあそこまで競り合えるってたいしたもんやな」
そういった一氏に、桃城がニヤリと笑って付け足した。
「うちのアイツに言ったら多分、『アップダウンの山地だったら勝ってた』って主張しますよ」
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