「終了です」
「はい、あがり!」
「私もあがり〜」
「えーっ!!」
選抜合宿の女子部屋では、現在突発的にカード大会が行われていた。
やっているのは、大富豪である。
さっきから数ゲームやっているのだが、運が悪いのか要領が悪いのか駆け引きが下手なのか(おそらくその全てなのだろう)、開始直後から巴は連続で大貧民となりどん底から這い上がれない。
「うう、ダントツでビリなんて……」
一人だけ手許に残ったカードを眺めながら情けない表情で溜息をつく巴に、大富豪のナヲミが笑顔でのたまった。
「じゃあ、罰ゲーム何にしましょうか」
「え? 聞いてないですよ!?」
「だって言ってないもの」
しれっと言うナヲミに二の句が告げないでいると、今度は杏が挙手する。
「私、赤月さんの髪、いじってみたいんだけど」
「あ、それ賛成〜」
「じゃあ私ブラシ持ってきます」
「はい!?」
ついていけない巴。
いそいそとバッグからブラシを取り出してくる那美。
すでに巴の背後に回っている杏とナヲミ。
形勢不利。至急援軍ヲ乞ウ。助けを求めようと涼香の方を見る。
「……はい」
「ピンとか用意してくれなくていいですから!
ああもう、那美ちゃんや原さんはわざわざ私の髪なんていじらなくても充分長いじゃないですかーっ!」
「えー、人の髪さわるのはまた別よ? はい、動かないで」
助けてくれる人はいないかと顔を動かすことすら禁止される。
じっとおとなしく座っているのが苦手な巴にとってはこれは苦行に等しい。
「は、早川さん、吉川さん〜……」
わらにもすがる思いで残りの二人に声だけで助けを求めたが、ムダだった。
「たまにはいいんじゃないですか?」
美咲(ちなみに先程の大富豪の最終結果は二位で富豪である)はすげなくそう言うと、傍らにおいていた本を手に取り、我関せずの姿勢をとる。
そして一方楓はというと。
「長いからとかどうとかいう事じゃなくてね」
顔が動かせないので気が付かなかったがいつの間にか、バッチリ巴の背後にいる。
「普段からまったく手入れしてないのが気になってしょうがないのよ!
いかにも伸ばしっぱなしで放置しました、っていうようなこの髪! 少しはケアしなさい!」
「あ、痛、痛い! 早川さん、もう少しブラシは優しく!」
「だったらおとなしくしなさい!」
後日、巴は部の先輩に「女の子って集まると怖いですよね……」と自分の性別をすっかり棚に上げたような発言を溜息と共にすることになる。
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