おい。 ……おい。 やっと気が付いたか。 どうした。 妙に上の空だが何かあったのか。 ……む、そうか? 俺はそれほど普段何事にも気の付かぬように見えるか。 別に万事気を配っているとは言わんがお前の様子がおかしいくらいのことはわかる。 ああ、すぐにわかる。 もっとも、お前が傍目からみて変化がわかりやすいからか、 単にお前がよく目につくせいか……それは知らないが、な。 で、どうかしたのか。 俺で力になれることなら手を貸すが。 |
ん〜。 ちょい、こっち来。 もうちょい。 うりゃっ! え? あったりまえじゃんか。 痛いようにほっぺた引っ張ったんだから。 怒った? 痛かった? じゃ、泣いちゃいなよ。 怒鳴っちゃいなよ。 無理して笑ってないでいいからさ。 つくり笑いなんかしてたって、可愛くないぞ? だから、ね。 俺に全部話しちゃわない? |
…………。 ……あー……、よしっ! メシ、食いに行こうぜ! オレがおごってやっからよ! なんでも好きなもん食っていいから…… あー。 ちょっとタンマな。 ……サイフん中、いくら残ってたっけな…… いいの! お前は余計なこと気にしなくて! 黙っておごられてろ! 満腹になったら、たいてーのつまんねぇ悩みなんか吹っ飛ぶだろ。 まあ、 もし、それでもなんとかならねぇんだったら。 そんときゃ…… お前の気分がスッキリするまでなんでも付き合ってやるよ。 |
あのさ、部長って細々とした雑用もだけど、 部員の様子に気を配らないといけないし、 常に全体をみていないとならない。 これで、結構地味に大変な仕事なんだ。 その中でも、 やっぱり部員の様子に常に目を配ることは特に大事だと思ってる。 些細な事でも見落としがないように。 え? あ、ああ、そうだよな。 ありがとう。 いやでも俺がいいたいのはそういうことじゃなくてだな…… だからお前の様子がおかしいことくらいは分かるんだよ。 ちゃんと見てるから、 無理に笑っていることくらいは、わかるんだよ。 俺じゃ、力にはなれないかな? お前がいつも通りの本当の笑顔に戻れるように。 |
…………。 ん、なんね? ああ、頭なでたんが気にいらんか。 悪い、つい、な。 えらく気をはっとるから。 ばってん、俺は空元気もよかと思うとっとよ。 嘘だろうと本当だろうと明るう振舞っとったらなんとなく元気は出よる。 作り笑いもそんなに悪かもんじゃなか。 そんでも、ま、気付いてもうたら、ほっとけんのも、事実ばい。 ……どぎゃんしたと? ちくっと、俺に話してみんか? |
ん、どうした? なにがって……なんか、お前疲れてるだろ。 ウチの練習はキツいからな。 そんなことねぇって? まあ、キツいのはお互い様か。 そうだよな。 じゃあ、疲れてるのはこっちか。 身体じゃなくて、心の方。 そうだろ? 身体だけが疲れてたんだったら、んな顔しねえよお前は。 こういう言い方もなんだが、面倒かけられるのは慣れてるからな。 なんか抱え込んでるんなら聞くぞ。 あ、言っとくが『迷惑がかかる』とかそんなのはなしだぜ? |
……ねえ、何怒ってんの。 だって、さっきからずっと不機嫌じゃんか。 ホントだって。 へらへら笑ってるくせに全然楽しそうじゃないし。 誰に気つかってるのかしんないけど無駄だから止めれば? どうせ、お前が誤魔化すなんてこと出来ないんだから。 とりあえず、俺は今のお前の笑い顔、見たくないんだけど。 ……あー、だから、 俺の前で無理しなくてもいいじゃんってこと。 どんな顔してたって、俺はここにいてやるから、さ。 |
一つ、質問してもかいませんか。 先程からの貴女、 気付いて欲しくてわざとらしく隠している振りをしているのか、 それで感情を隠せているつもりなのかどちらですか? 言っておきますけど、後者なのだとしたら全くの無駄ですよ。 丸見えです。 とはいえ、貴女が駆け引きが出来るほど器用とも思いませんが……。 ええ、何度でも言ってあげましょう。 無駄です。 全くの無駄。 ですから、諦めてください。 諦めてしまって、その憂鬱の理由をボクに教えてしまってください。 ね? |
どうかしたですか? だって、今日のキミは無理して笑っているでしょう? ……あの、ですね。 ボクは身長だって低いし、 力だって強くない。 テニスの実力だって全然です。 けど、キミのことに関してだけは誰より知ってるって、自信があるです。 だから、キミが落ち込んだりしてる時はすぐにわかるです。 でも、その原因は推測はできても確かな答えは分からないです。 キミが言ってくれない限りは。 ボクは頼りないし、 どれだけ力になれるかなんて分からないけど、 言ってみてくれませんか? |