ん? ああ、そうだな。 寒の戻りというやつだ。 ここ数日暖かかったから尚更そう感じるのだろう。 三寒四温と言ってこれを繰り返すうちに春が来る。 暑さ寒さも彼岸まで、ともいうしな。 もう間もなくの辛抱だ。 と、説明したところで今の寒さがどうなるわけでもないな。 ふむ……。 些少の違いでしかないが、手でも繋ごうか。 少しはましかもしれない。 必然的に俺とお前の距離が縮まるから空気の滞留による保温も期待できる。 ……どうかしたか? 何か、おかしな事を俺は言っただろうか。 |
ほんま寒いなあ、今日は。 ここ最近あったかかったからなおさらやな。 ……で、なんで自分はこの寒い日に手袋もしてへんねん。 遅刻しそうやったから? …はあ、ほんまアホやなあ自分。 ああはいはい怒りなや。 俺の手袋貸したるから。 見てる方が寒いわ。 ……ん? せや。片方だけや。 俺かて寒いもん。 だから、俺が右手に手袋して、自分が左手に手袋するやろ? で、残った俺の左手と自分の右手をつないで一緒に俺の上着のポケットに入れる。 これで二人とも両手がぬくい。 な、間違ってへんやろ? |
あ、いた! こんなところにいたのかよ。 すっげー探し回ったじゃないか。 お前な、一人でいる時ならともかく一緒にいる時にあんまフラフラすんな。 横見たらいきなり消えられてた身にもなってくれよ… あ? あーあー、わかったよ。 わ・か・っ・た。 だったらこうする。 手、繋いでりゃお前がどこに行ったってすぐわかんだろ。 ……なんだよ。 俺だってこんなとこ先輩や兄貴に見られでもしたら…… な、なんでもねぇよ! だからなんだよ! 笑ってんじゃねえよ。 ほら、行くぞ! |
俺の勝ち、だね。 え? そんなことないよ。 本当に今日初めてやったんだって。 ビギナーズラックってやつじゃないかな。 さ、そろそろ時間だし、行こうか。 ……え? 罰ゲーム? 「負けた方が勝った方の言うことをなんでも聞く」 確かにそんなこと言ってたけど、俺が言い出したわけじゃないし、別にいいよ。 そうなの? 弱ったな…… あ。 えーっと、あの、嫌なら断ってくれていいからね? 本当に。うん。 ……手を繋いでも、いいかな。 今からコートに行くまでの間。 |
な、日本の言い回しで女の指を褒めんのに「白魚のような」って言うんだろ? あれ最近初めて食ったんだけどあんな指ってどうなんだよ。 まあ、外国のフィンガービスケットだってタイガイだけどな。 で、お前の手はさ。 あんまそういう形容詞は当てはまんないよな。 女にしては結構デカいし、 四六時中ラケット握ってっからけっこうマメできてる? 怒んなよ。 それが悪いって言ってるわけじゃねぇんだから。 逆。 俺は好きだぜ? お前の手。 好きだから握ってんじゃん。 ……だから、なんでそこで暴れるかな。 いくら暴れたって俺の手、振り解けるわけないっていい加減学習しないかね。 |
この局面さえ乗り切れば……。 よしっ! あ、あのね! あー、や、そうじゃなくって。 うん、大丈夫、それは全然。 あーもう……。 いやダメだ、ここでくじけたらいつもの二の舞だ! お、お願いがひとつあるんだけど! えっと、あの、その、手を! 手を、繋いでも……いいかな。 あ、いやその嫌ならいいですごめんなさい。 ……え? いいの? 本当に? 良かった〜っ! はぁ〜。緊張したー。 う……笑わないでよ。 真剣なんだから。 |
はぐれないように気をつけてください。 そうだ。 手を繋ぎましょうか? そうすれば、はぐれることは無いと思いますが。 あー、いえ、いささか今の私の発言は軽率でした。 申し訳ありません、訂正します。 人ごみを言い訳にするのは、男らしくありませんね。 格好の口実を見つけてしまったので、つい。 ええ、 今、私は貴方と手を繋ぎたいのですが。 かまいませんか? |