暖冬暖冬と毎年言われている通り今年も十二月に入ってもなお随分暖かい日を維持していたが、ここしばらくで急に空が本来の季節を思い出したかのように寒くなった。
どんよりと厚い雲は、クリスマスパーティーが始まる前にはいかにも雨が降りだしそうな不安な雰囲気を醸していたが、完全に日が暮れてしまった今、冷えきった空気により今度は雪が降るんじゃないかという期待を抱かせる。
同じものなのに、雨なら嫌で雪なら嬉しいというのも変な話だけど。
「はい、もしもし。
え? 今からですか?
あ、いえ、大丈夫です! すぐ行きます!」
突然かかってきた電話を受けていた巴が、携帯を閉じるとリョーマの元に駆け寄り、手を合わせる。
「リョーマくん、ごめん!
ちょっと寄るところができちゃったから先に帰ってて」
こんな夜更けに? と一瞬リョーマは思うが、すぐに今日はクリスマスだと思い至る。
青春台のクリスマス。
その真骨頂は夜にある。そう聞いた。
「別にいいけど……あんまり遅くならないようにしなよ。オフクロたちが騒ぐから」
「うん、じゃあ!」
手を振ると慌ただし駆け出して行く。
行く先はわからないけど、向かった先に誰がいるかは見当がついている。
「……?」
程なくして、リョーマも自分の携帯がなっていることに気付く。
なんで俺に。
そう思いながらリョーマは電話に出る。
「はい。そうだけど」
向こうからの言葉に、少しだけ、リョーマの口の端が緩まった。
「…………あっ、そ。
わざわざ俺に報告してくれなくてもよかったんスけどね」
素っ気なく言い捨てて電話を切ろうとしたが、ふと思い立って『良いお年を』とおざなりに付け足した。
そして携帯を閉じる。
「あれ、越前だけか。赤月は?」
「アイツなら寄るところがあるって先に帰ったッス」
そう言いながら桃城の自転車後ろに足をかける。
巴がいないのでポジション争いをする必要もない。
「ふーん。ところで越前」
「なんスか」
「なんか、いい事でもあったのか? 機嫌いいじゃねーか」
自分では全くそんなつもりはなく、むしろ不機嫌に近いと思っていたので桃城の言葉に一瞬驚いたような表情を見せたリョーマだったが、すぐにそれをかすかな苦笑に変えた。
「そうッスね……。取り敢えず、面倒ごとがひとつなくなった、のかな」
真冬の花火は壮観だった。
白い息をはきながら見る花火というのは初めてだったが、すぐに寒さも気にならなくなる。
「うっわー……キレイですねぇ……」
溜息をつくように巴が言う。
花火が上がる一瞬、彼女の顔に光があたる。
光に酔いしれているその表情が見える。
「巴」
不意にかけられた声に、巴は傍ら――伊武の方に視線を移す。
またひときわ大きな花火が上がり、二人の顔を照らす。
伊武が口を開き何か言ったその瞬間、光よりも少し遅れて届いた打ち上げ音が耳に響き、ただでさえ大きくはない彼の声は簡単にかき消された。
わかったのは、いつになく優しげな表情だけ。
「え? いま、なんて言ったんですか伊武さん?」
聞き返したときには、もういつもの仏頂面だったけれど。
「別に」
「別に、じゃないですよ!
確かに今何か言ったじゃないですか!
今すごく大事なこと言いましたよね!?」
つかみ掛からんばかりの勢いでまくし立てる。
本当に、勘だけはいい。
花火は先ほどの大玉が最後だったらしい。
もう、小声でだって聞き取れる。
「一度しか言うつもりなかったんだけどね……一応言っとくけど三度目はないから」
ぼそぼそとそう言うと、巴の耳元に顔を寄せた。
想いを彼女に告げる為に。
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