公園内に設置されたライトが一つ、接触不良なのか電球の寿命なのか数回の点滅を起こした。
それで、はじめて伊武は辺りがだいぶ暗くなってしまっている事に気が付いた。
我に返ると、全身がじっとりと汗で湿っている。
額を流れる汗をユニフォームの袖でぬぐったが、そのユニフォームだって当然湿っている。
さすがにこれ以上は無茶だ。
そう判断し、ベンチにラケットを置いて自販機にスポーツドリンクを買いに行く。
夏場とはいえ、一旦日が暮れ始めると早い。
自販機の明かりに小さな虫が集まっている。
軽く眉を顰めながら虫を払いのけてボタンを押す。
ゴトリ、と重い音を立てて缶飲料が落ちてくる。
多少冷たすぎるくらいのそれを、開けてしまう前にスポーツタオルにくるんでしばし涼をとる。
ベンチに戻ってくるとそれを一気に飲み干した。
失われた水分が身体中に染み渡っていく心持がする。
そろそろ帰らなきゃな。
そう思いつつも、イマイチ帰路につく気になれない。
余り認めたくないことだが、気が高ぶっている。
このまま帰宅したところで、落ち着かない気分のままだろう。
明日になれば、全国大会が始まる。
ずっと目標としていた全国大会に、出場するのだ。
一年前には、こんな自分達は想像できただろうか。
大会どころか、練習試合にすら出る事が出来なかった自分達が。
内心では、少し諦めかけていた夢。
橘がいなければ、夢は夢のままで終わっていたかもしれない。
それが、一歩一歩階段を上るように皆で確実に前進した結果、現実になろうとしている。
明日、夢は現実になる。
夢見ていたのは『全国大会に出ること』。
だけどそれはゴールじゃない。
当然それはわかりきっているけれど、モチベーションが知らぬうちに下がってしまったりはしてしまわないだろうか?
昂ぶる気持ちと、それに相反する不安。
ライトが再び点滅し、今度は明かりが消えた。
一定感覚でライトが設置されているものの、不意に辺りが暗くなる。
何気なく上を見上げると、星が綺麗に見えた。
住宅街にいるよりもずっとたくさんの星が見える。
それでも、巴は『東京は星が少ない』って文句をつけるんだろうな。
なんとなく山育ちの少女の顔が頭に浮かぶ。
青学は関東大会優勝という最高の形で全国大会出場を決めた。
1年にも関わらずミクスドレギュラーの巴も、今頃は人並みに気が昂っていたりするんだろうか。
彼女のことだから全くいつもと変わりなし、という可能性もある。
まあ、でも、その時はその時でいいか。
カバンから携帯を取り出して、登録されている電話番号を指定する。
この公園から彼女の家までは、そう離れていない。
けれど時間も時間だ。5回コールして彼女が出なければ、家に帰ろう。
巴の事を考えてとか、彼女の為にとか、そういう偽善を自分自身に言い聞かすつもりは全くない。
ただ、今自分が彼女に会って話をしたかった。
彼女の為じゃない。自分の為に。
「はい、もしもし。
どうしました、伊武さん?」
巴が電話に出たのは7コール目だった。
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