書きあがった年賀状をまとめて家族に渡すと、伊武は大きく息を吐いて伸びをした。
毎年恒例とはいえ面倒臭い。
裏書は印刷で済ませるが表書きは毎回手書きなのだ。
とはいえ授業のノートを取るときだって同じかそれ以上の文字数を書いているとは思うのだけれど。
大したことは書いていないのだしメールでもいいかなとは思うのだが家族が一緒に自分の分も毎年買ってくるので断るのも面倒で結局今年も書く羽目になった。
とはいえお世話になった人にはメールではなく賀状でないと礼を欠いている気はする。
……今のところ、伊武にとってそんな人間は橘くらいのものであるが。
机の上にはまだ白紙の年賀状が数枚。
葉書を買う時に数枚余分に頼んでおいた為だ。
年明けに出していない相手から届いた賀状への返信に使うための予備である。
仕舞う前にもう一度メモ書きを見ながら出し損ねがないか確認する。
クラスメイト、友人、テニス部のメンバー。
抜けはない。
「……あ」
と、そこで一人の顔が脳裏に浮かんだ。
赤月巴。
そういえば彼女の分は書いていない。
初夏に知り合って、なんでか一緒にテニスをするようになった他校生。
一体どういう経緯で親しくなった、というか付きまとわれるようになったのかイマイチ記憶にない。
気が付いたら週末に電話がかかってくるようになっていた。
一緒に練習をするときは不動峰が休日に使用している河川敷のコートにやってくるのですっかり他の部員とも顔なじみである。
確か今度のクリスマスパーティーにも誘うとかなんとか言っていた気がする。
どうしようか。
しばし白紙の年賀状を見ながら考える。
一応出した方がいいだろうか。けれど世話になった覚えはないし。
そもそも住所なんて知らないんじゃないかな。
訊いた覚えはないし。
…………待てよ。
携帯を取り出す。
アドレス帳を開いて詳細を見る。
やっぱり。
初めて練習に付き合った時だったかに頼みもしないのに送られた巴のデータは携帯番号にメールアドレス、更に現在の下宿先と実家の電話番号や住所もご丁寧に入っていた。
これでは『住所を知らないから』という言い訳はできない。
……仕方ないか。
葉書を一枚取り出す。
このたった一枚だけの為にプリンターで印刷するのも馬鹿馬鹿しいので表も裏も手書き。
絵心やデザインセンスなど別に人並み以上に持ち合わせているわけではないので白紙を埋めるべく何を書こうか考える。
「なんだよこれ。
結局一番手間かかってるじゃないか。ホント嫌になるよなぁ……」
誰が聞いているわけでもないのに思わず知らずぼやきが口から出る。
おとなしくパソコンを使えばよかった。
そんなことを思ってももう遅い。
結局、他の年賀状の何倍もの時間をかけて一枚の葉書を書き終える。
しかも、出すのもこれ一枚の為に自分でポストまで入れに行かなければならないことに気が付いた。
ああもうどこまでも面倒だ。
本人と一緒にいる時そっくりだ。
外に出る時についでに、とカバンに放り込んで万が一忘れてしまったらそれこそ労力が無駄になる。
不承不承立ち上がり、外に出る。
ポストが然程家から離れていないのがまだせめてもの救いだ。
ポストに年賀状を投函する。
やっとこれで終了だ。
無駄な手間がかかったとしか言いようがない。
しかも。
年賀状を書いている途中で気が付きたくなかったことにも伊武は気付いてしまっている。
自分は別に訊いてもいないのに巴の住所を知っていたけれど、伊武は彼女に住所を教えた覚えは全くない。
と、いうわことは彼女から賀状が届くことはない。少なくとも絶対に元旦には来ない。
やってらんないよなぁ。
別に年賀状が欲しいわけじゃないけれど、妙に振り回されたことが腹立たしい。
出さなきゃ出さないで妙に気にかかったであろうこともわかってる。
思い返せば彼女と知り合ってから終始こんな調子だ。
初夏から、今までずっと。
来年も同じ状況が繰り返される暗示じゃなければいいけど。
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