今年も猛暑である。
毎年毎年猛暑、と言われ続けているので普通の夏がどんなものなのかもうわからなくなっているような気もするが、とりあえず暑い。
太陽の光と一緒にみんみんと泣き続けるセミの声がまた一気に体感温度を引き上げる。
家を出る時刻を誤った。
そう思いながら、伊武は図書館に向かうべく炎天下を歩いているところだった。
全国大会も終了し、残ったのはわずかばかりの夏休みと、宿題。
どれだけテニスに全てをかけていようと当然のことながら宿題の量は変らない。
もっとも、七月からある程度少しずつ片付けていたおかげで残るところはあとわずか、である。
そのあとわずかの宿題を片付けるべく、資料を求めて図書館に向かっているのだが。
その気になれば自宅のパソコンでも調べることができるだろうが、面倒くさい。
図書館なら冷房も効いているし、妹達の邪魔も入らない。
そう思っていたのだが、そこにたどり着くまでの暑さは予想以上だった。
上からの日差し。
下からはアスファルトの照り返し。
テニスをしているときだって今と同じくらい、いやそれ以上に暑いのだけれどやりたいことをやっているか、気の乗らないことをしようとしているかでこれほどまでに変る。
しかし一旦家を出た以上わざわざ出なおすのも馬鹿馬鹿しい。
とにかく図書館に入ってしまえば涼しいのだ。さっさと歩けばいい。
そう思い、歩みを速めたその時に背後からかけられた声に、伊武は再びこの時間に家を出たのは誤りだったと再認識した。
「あ、伊武さん!
こんにちはー、暑いですねー今日も」
そう言いながら伊武の横に駆け寄ってきたのは、巴である。
走ってきたため、乱れた髪が汗で頬に張り付いている。
「こんにちは。
そうだね、暑いね。キミが来たおかげで更に暑くなったし」
「それは濡れ衣ですよー」
伊武のイヤミを軽く受け流す。
馬耳東風。カエルのツラになんとやら。
これだから伊武はこの青学一年が苦手だ。
「ところで、これからどこに行くんですか?」
「図書館」
「あ、私もなんですよ!
そろそろ宿題片付けないと、と思いまして」
行き先も目的も同じとは。
内心ため息をつく。
「で、伊武さんはもうおわりました? 宿題」
「……終わってないから今図書館に行ってるんじゃないか。なに、イヤミ?」
「別にイヤミじゃないですってば。
目的が同じなんだったら、一緒にしませんか?」
にこりと笑って巴が提案する。
一緒に?
「キミと?
何、2年の宿題をキミ手伝えるとか言うわけ。それとも手伝えって意味なのかな……ああ、そっちのほうがらしいよなぁ……」
ボソボソという伊武に、巴が唇を尖らせて否定する。
「別に手伝うとか手伝わないとかじゃないですよ!
一人でいるよりも、同じ目的の仲間がいるほうが励みになるじゃないですか」
「励みになるのかなぁ……かえって集中できない気もするんだけど」
「ダメですか?」
「ダメとは言ってないよ。
ただ、館内で騒いで注意されるような真似はしないようにね」
「し、しませんよ!」
それもどうだか、と思いながら顔をあげると、もう図書館は目の前だった。
さっき一人で歩いていたときはあんなに暑くてどうしようもない気分だったのに、巴に会ってからここにつくまでは随分短かった気がする。
それほど暑さも気にならないくらいに。
「あー、暑いときは暑気払いに熱いのがいいって言うしね……」
「へ? なにか言いましたか?」
「別に」
さっさと館内に入る伊武について行きながら、巴が笑顔で言った。
「さっさと宿題終わらせて、明日は一緒にテニスやりましょうね、伊武さん!」
ってことは、明日もキミと一緒ってことなのかな。
別にいいんだけど。
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