「ちょ、ちょっと! 本当に勘弁してってばー!」 賑やかな声にそちらを向くと、ミクスドの女子選手二人が見慣れない女子と盛り上がっている。 友人が陣中見舞いに訪れたようだ。 「青学か。わざわざこんなとこまで、ご苦労なこったな」 「そうですね」 呆れているとも感心しているとも取れる宍戸に相槌を打つ。 那美と、同じくらいの身長の女の子が二人。そして、一人そこから頭をはみ出させている巴。 ああ、一年の中では彼女はあんな風なのか。 そんな風に思った。 「巴さん、この間来てたのって同級生?」 そんなことを不意に思い出して訊ねてみる。 今、鳳の隣を歩く巴は彼の肩くらいまでしかない。 「え? ……ああ、この間の昼練習の後の時ですね。 はい、学校の友達が様子を見に来てくれたんです。やかましかったんじゃないですか?」 「いや、賑やかではあったけど」 迷惑ではなかったのかと慌てる巴につられて鳳も慌てて否定する。 実際、眉をひそめるレベルではなかった。……多分。 「ただ、巴さん背が高い方なんだな、って思って」 言われて巴が自分の頭に手をやる。 もっとも、何も無い場所でそうしたところで背の高さをはかることなどできないけれど。 「あー、そうですね。ちょっと高い方かもしれないです。 ミクスドの中でも私より高いのって原さんくらいですし」 言われて見ればその通りだ。 男子選手と一緒にトレーニングしているので女子の枠で比較した事がなかった。 同校の鳥取と比べれば確かに大きいが、彼女が標準より随分と小さいというくらいは知っているので標準としての背の高さなど考えた事がなかったのだ。 そもそも男子の中でも相当高身長にはいる鳳にとってはさほど違いを感じるほどではない。 「まあ、テニスしている上で身長があるのはプラスにはなってもマイナスにはならないと思うんでいいんですけどね」 何気なく続けた巴のセリフが引っ掛かった。 それではまるで。 「……テニス以外では、良くないの?」 悪気なく始めた話題だったけれど、巴には触れてほしくないところだったのだろうか。 気遣わしげな鳳の顔を見上げて巴は笑って首を横に振る。 「いえ、まさか。 けどやっぱりたまにですけど小さいとかわいいなー、とかは思いますよ」 すぐに目線を下げてしまったので、鳳からは巴の表情を窺い見る事はできない。 声はいつもと変わらないけれど。 これがテーブルに向かい合わせなら問題なく巴の表情を確認できるのだけれど。距離が縮まるほど、逆に感情が読みきれなくなる。 だから、彼女の顔が見えるよう鳳は少し腰を屈めてのぞきこむような体制をとった。 「? ど、どうかしましたか?」 そこに見えたのはただ驚いただけの表情だったので安心する。 ほっとしたついでに、もう一つ思った事を口にしてみる。 「俺は、巴さん充分かわいいと思うよ」 途端、巴の顔が朱を引いたように赤く染まった。 「……いきなり目を見ながらそういうこと言わないでください!」 「どうして?」 慌てて目を逸らし、先に立って歩く。 すぐに追いついた鳳は、再び巴の横に並ぶ。 「そんなこと言うのは鳳さんくらいですよ。そりゃ、鳳さんにとったら私くらいの背でも全然変わらないんだろうけど……」 「そうかな」 「そうですよ」 すぐ隣からでは彼女の表情を読み取ることは難しいけれど、長い髪の合間に見える頬はまだほんのり赤い。 やっぱり、かわいい。 たとえ身長が何センチでも。 相対評価ではなく、絶対評価で。 「……本当にそう思ってるのが俺だけだったら、安心なんだけど」 「はい?」 小さな呟きを聞き取れなかった巴に、鳳は笑ってなんでもない、と誤魔化した。 |