それが誰であれ、いいところを見つけるのは嬉しい。 長所は多い方がいいのだから。 けれど、たまには例外もある。 知りたくない。 無関心でいたい相手のいいところなんてこれ以上知らなくていい。 「よ、巴。今日も一日お疲れさん」 ひょっこりと現れた忍足に、巴は驚く様子もなく会釈した。 「こんにちは、忍足さん。ストーカーだって訴えられないよう気をつけてくださいね」 「はは、かなんなぁそれは」 巴の言葉に、堪える様子もなく笑う。 別に巴も本気で言っているわけじゃない。 こうやって不意に忍足が現れるのはいつも子供たちにテニスを教えた日だ。 毎月決まってその日だけ、彼はやってくる。しかも必ず帰りがけに。 何度か、それなら一緒に参加すればいいのにと誘ったことがあるが、その気はないらしい。 なんにせよ、テニス教室の帰りは忍足と帰路を共にするのが最近の習慣となりつつある。 鳥取が名古屋に転校して随分になる。 彼女の不在を感じながらのテニス教室は、たまに、ほんの少し辛い。 樺地と二人でいても、彼女がいない違和感を感じてしょうがない。 なので、こうしてやって来ては帰り道の間になんでもないような話だけをしていく忍足に巴はかなり救われている。 口に出したことはないけれど。 忍足は、相手にそれとわからないように優しくするのが上手い。 いつも、何気なく優しいので、巴が忍足の優しさに気が付くのは少し後になる。 お礼を言うタイミングも、拒否する機会も忍足は与えてはくれない。 困るなぁ、と思う。 巴は忍足の望むものを返してはあげられない。 想いを返してあげられないのだから、いっそ無関心で関わらないでいられればベストなのに、実際は逆だ。 返す当てのない、形なき負債は溜まる一方で、それと同時に忍足の長所がどんどん見えてくる。 本当に、困る。 「……忍足さんって卑怯ですよね」 歩きながらの雑談の合間、巴が言った言葉はあまりに唐突だったが、忍足は動じる様子も見せない。 ただ、苦い笑みを浮かべて、「堪忍な」とだけ言った。 途端に倍増する罪悪感。 どうしようもないのに。 気持ちはこうも思うようには動いてくれない。 赤い糸の伝説。 小指の先で繋がっている運命の赤い糸。 前に、そんなものはあってもなくても変わらない、そう言った覚えがある。 けど、それは間違いだったかもしれない。 今は、赤い糸が見えればいいのに、そう思ってる。 もし、糸の先が繋がっていたなら、運命だと思い切りがつくかもしれないのに。 ……なんて、それはただの逃げだ。 自分の勝手かつ傲慢な考えに嫌気がさして、深いため息をつく。 わかってる。 そんな都合のいいものは、存在しない。 巴のため息に忍足がこちらを見ていたのに気付き、無理に笑顔を作ってかるく首を振る。 ロマンチストがうつったのかもしれない。 きっと、赤い糸があったとしても、巴の小指の先はぐちゃぐちゃに絡まってしまっているのだろう。 今の気持ちと同じように。 そう、思った。 |