「ねえ、どう思います、宍戸さん?」 「うるせぇ。俺が知るか!」
困り果てたような表情の鳳と、ウンザリ、という様子を絵に描いたような宍戸。 先程から延々この調子である。
「だいたいなぁ、長太郎。 俺はこういう話題には向いてねぇんだよ。 他の奴に相談しろ、他の奴に」 「他の奴って、誰ですか?」 「……………………と、とにかく、俺以外のヤツだ」
鳳を(と、いうか今現在はその余波で宍戸も)悩ましているのは先月のバレンタインの話である。 この日、鳳は巴からチョコレートケーキをもらったのだ。 これが他の人間ならば、普通にバレンタインの贈り物として解釈できる代物である。
しかし。
「だって、もしただの誕生日プレゼントだったとしたら、 ホワイトデーにお返しをするのって、おかしいじゃないですか」 「だーかーら、なんでもらったときに訊いとかなかったんだよ」 「訊けませんよ、そんなこと!」
奇しくもバレンタインと誕生日が重なっている鳳には『はい、プレゼントです!』と渡されたそれの真意がどちらにあるのかがわからなかったのだ。 そして、一ヶ月が経過しようとしている今、それに悩まされている。
先程宍戸に言ったように、もし単なる誕生日プレゼントなのだとしたら、ホワイトデーにお返しをするのはなんだかおかしい。 しかし、バレンタインのチョコレートとしてくれたのだとしたら、ホワイトデーを無視してしまっては彼女を傷つけるだろう。
本当に、誕生日がこんな日でさえなければ……と、言ってもどうしようもない事をつい思ってしまう。
「……って言うか、お前ら付き合ってるんじゃなかったのかよ」 「えっ!? 付き合ってるだなんて、そんな! 巴さんに失礼ですよ!」
宍戸の言葉に赤面しながら慌てて鳳が否定する。 端から見ていると、そうとしか思えないのだが本人的にはその意識はないらしい。
「もうお返し、買っちまったんだろ? じゃあ、渡せば済む話じゃねぇか」 「いや、でも……」 「だから、ホワイトデーとかなんとか言わねぇで単に『お返し』だっつって渡しとけ。 赤月が物もらって文句なんかつけねぇよ」 「そうか。……そうですね。 ありがとうございます、宍戸さん!」
感謝はいいから二度とこんな相談を持ってくるな、と言いたい宍戸であった。
巴はそれとわからないようにそっとため息をついた。
先月、誕生日プレゼントとバレンタインを兼ねて大奮闘して作ったチョコレートケーキは『ありがとう』という言葉だけでアッサリと受け取られてしまった。 そして、先日『この間のお返し』とプレゼントをもらったのだが、どうやら爽やかに義理か単なる誕生日プレゼントだと思われてしまっているらしい。
「あー、今更訊けないしなぁ……」
バレンタインは、決死の覚悟だったのだが。
「鳳さんの誕生日が、あんな日でさえなければなぁ……」
ふたりの微妙なすれ違いはまだ続きそうである。
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