「今日、誕生日なんです!」 嬉しそうに巴が言ったのは、休日に練習を終え帰りにファストフード店で寄り道をしていた時のことだった。 「って、誰の」 「私です。だからこの店寄ろうって言ったんですよ。誕生日は割引があるから」 向日の内心の動揺も知らずハンバーガーにかぶりついている。 知らなかった。 っていうか今このタイミングで言うよりもっと前に言ってほしかった。 「お前、なんでそれ言わねえんだよ」 「今言ったじゃないですか」 きょとんと巴が不思議そうに首をかしげる。 今聞いたんじゃ遅い。 もっと前に知ってたなら誕生日プレゼントくらい用意したのに。 ……いや、大分前じゃないと財布の中身にはかなり難ありだが。 それでもせめて今レジ前に言ってくれりゃハンバーガーくらいはおごってやれるっつーの、という向日の心の叫びは勿論巴には届かない。 なんかねぇかな。 携帯を取り出すふりをしてバッグの中を覗いてみる。 当然自分の入れたもの以外はそこには見当たらない。 と、ひとつだけ渡せそうなものがあった。 「巴」 「はい?」 ずい、と彼女の前に突き出した左手には鳥の羽でできたアクセサリーが握られていた。 偶然バッグに入れていたものだ。 「やるよ」 「え、これって……確か合宿の時に買ったやつですよね?」 そうだ。 Jr.選抜合宿での自由時間に巴と外出した際に見つけて買ったものだ。 確かあの時に巴も羽のアクセサリーが好きだと言っていた。 「使い古しで悪ぃけど誕生日プレゼント。てかお前が前々から言っとかねえから」 「私、そんなつもりで言ったんじゃなかったんですけど! せっかく向日さん気に入って買ってたのに悪いですよ」 「うっせー! 俺がやるっつってんだからいーんだよ! いらねーんじゃなけりゃ受け取れ」 そう言って半ば強引にアクセサリーを巴に渡す。 少し戸惑った様子を見せた巴だったが、すぐにそれが笑顔に変わった。 「えへへ、ありがとうございます。 本当は私もあの時欲しいなって思ってたんですけどお小遣い足りなくって」 ……だから、その場で言やあそんくらい買ってやったって良かったのに。 何でもかんでも開けっぴろげな性格なくせに。 けどまあ、あの時点で向日が買ってやると言っても巴に固辞された可能性は高い。 誕生日祝いという口実をもってしてもこうなのだから。 巴は受け取ったアクセサリーをいそいそと自分のバッグに仕舞い込んでいる。 そしてこちらを向くとこうのたまった。 「これ持ってたら、私も向日さんみたいに高く跳べるようになれる気がしますね!」 「……そりゃ本人の努力次第だろ」 「わかってますよ! だから『気がする』って言ってるじゃないですか。ちゃんと努力もします!」 向日の言葉に頬を膨らませる。 そんな巴の顔を見ていると、思わず口をついで言葉がこぼれた。 「俺は、お前がいればそれだけで高く跳べる気がすっけどな」 「……え?」 「なんでもねー」 聞こえてないならそれでいい。 ごまかすようにコーラの容器を手に取る。 「えー、もう一回言ってくださいよー」 「聞こえてんのかよ! 言わねーよ!」 「ちぇー」 わざとらしく舌を出して見せた巴に向日は代わりに別の言葉を口にする。 「誕生日、おめっとさん」 そう言うと、巴は極上の顔を見せた。 それも聞きたかった言葉なんです、と。 ――― Happy birthday !! ――― |