何気なく差し出された包み。 巴は凝視してから跡部に確認を入れた。 「これ、ホワイトデーのお返しですか?」 時期的に考えてそれ以外ありえないだろう。 妙な事を訊ねる。 「ああ、そうだ。それがどうかしたのか?」 「バレンタインのお返しって事ですよね」 「普通、ホワイトデーってのはくれた相手だけに渡すもんじゃねえのか」 またなんでこんな当たり前の質問ばかり、と思いながらも跡部は一々答えてやる。 なんだか巴が真剣だったからだ。 「これ、渡す前にもう一度考えてください。」 と、不意にそんな事を言う。 突拍子がないのはいつもの事だが、その意図するところがさっぱり掴めない。 「どういう意味だ、そりゃ」 なので、思ったままに疑問をぶつける。 考えたところで彼女の思考回路が読み取れる筈はないのだ。 インサイトをもってしたとしてもこればかりは不可能だ。 巴が、唇を開く。 意を決したような表情で。 「ホワイトデーのお返しは、バレンタインに貰った分の想いを返すものです。 もし跡部さんにそのつもりがないんなら、それはそのまま引き取って下さい」 そしてこう言い切った。 なるほど、そういう事か。 二人が出会ってからもう半年以上が経った。 こうして一緒に練習をしたり、ごくたまに他の目的で出かける事があっても、二人の間にコレといった約束事は何一つない。 ただ一緒にいて。 ただ一緒にペアを組んで。 パートナーであるのも、他校であるがゆえに公式ではJr.選抜で一度組んだ事があるだけ。 そんな風にただなんとなく、の状態のままズルズルと曖昧な関係が続いているのが今の二人の現状である。 別にこの状態に不満があったわけではないが、巴はこの関係を打破したいのだ。 区切りをつけてしまいたかったのだ。 それが一ヶ月前。 あの時、『考えておく』と言った跡部の答えを、もう充分に待った。 居心地のいい、楽な今よりも、白か黒、どちらかの未来を。 少し、考える。 適当にごまかすつもりは毛頭ない。 時間にすれば本当にほんの少し、しかし巴にとっては随分と長い沈黙の後、跡部が返した答えはこうだった。 「選択権はお前にやる。 言っとくがな、俺様の一番は常にテニスだ。 お前がその上に来る事は有り得ねえ。 どこまで頑張っても二番目だ。最優先にはしない。 ……それでもいいんなら、受け取ればいい」 再び差し出された小さなプレゼントの包み。 両手で包み込んでしまえばすっかり隠れてしまうほど小さな。 しかし、その意味するところは巴にとっては途方もなく大きい。 「それは私だって一緒ですよ。 一番はテニスです。 跡部さんがテニスよりも私を優先するような人だったら、受け取りません」 雰囲気も何もないようなそんなセリフを吐いてそれを受け取る。 と、急にその手首を掴まれ、引き寄せられた。 顔が近い。 「え、あ、あの、跡部さん!?」 動転して声が裏返っている巴の耳元に顔を寄せ、囁いた。 「バーカ。……当然、二番目も俺様で固定だな?」 |