青学と、氷帝。 その中等部と、高等部。 同じ都内とはいえ、毎日会える距離でもない。 部活やなんやかやで週末にだって毎回会っている訳でもない。 中学と高校に別れてしまってからは尚更だ。 だから、一緒に練習をする時は大抵ひと月程度のタイムラグが生じるのが常である。 かといって、その間何もしていないわけではない。 連日部活に精を出し、自主練習だってこなしている。 練習量なら部内でもトップクラスだ。 それなのに。 「どうかしたのか」 巴が密かについた溜息に気が付いた跡部が尋ねてくる。 目ざといというか、耳聡いというか。 「どうもしませんけど」 「どうもしないわりには不機嫌じゃねえか」 「……バカにしませんか?」 「内容も聞かねえうちに安請け合いできるか」 そう言いながらもラケットを下ろして聴く体勢に入られたので、しぶしぶ巴が口を開く。 「……毎日、練習してると段々上達してくるじゃないですか」 「そりゃそうだろ」 「特に、今月は私すごく調子が良かったんです。 で、跡部さんと一緒に練習するのが一ヶ月ぶりだったし、差が縮んでるんじゃないかな、って思ったんですけど……」 背中は思った以上に遠すぎた。 自分の好調などほんの些細なものだと、その実力差は明確に巴を叩きつける。 どれだけ努力しても、その背中は近づかない。 どころか練習をともにする度にその遠さを実感するばかりだ。 「……フッ」 巴としては大問題を真剣に話しているつもりなのに、跡部に軽く鼻で笑われた。 思わずむっとする。 「どうせ身の程知らずですよ」 「別に何も言ってねえよ。まあ身の程知らずではあるがな」 「結局言ってるじゃないですか!」 「キャンキャンわめくな。いい傾向だろ」 「……何がですか」 口を尖らせて訊くと、跡部は手に持っていたボールを手で玩びながら口の端で笑う。 黄色いボールはこうしてみると同じボールにしか見えないのに跡部の手にかかるといつも別のもののように自在に動いているようにすら見える。 「やっと相手の実力が分かるようになってきたってことじゃねえのか」 俺様の素晴らしさを理解するには遅すぎるくらいだがな、と余計な一言が付け加えられる。 去年一年は、ただがむしゃらに駆け抜けてきただけだった。 自分の事しか見えなかった。 今、やっと冷静に周りを見る事が出来るようになった。そういう事なのだろうか。 「でも、こんなペースじゃいつになったら跡部さんと対等になれるんだか」 上下運動を繰り返していたボールの動きが止る。 跡部が意外そうな顔でこちらを見る。 「だって、跡部さんのパートナーなんだから対等になりたいじゃないですか」 判ってる。 Jr.選抜の時は跡部に引っ張り上げてもらっただけだ。 まだ自分は本当のパートナーにはまだなれていない。 「まだテニス初めて一年しか経ってねえクセに……フッ、上等だ」 「いますぐは無理ですけど、いつか跡部さんに頼られるのが目標ですから」 本気の台詞だったのだが、跡部はそれを聞いて大笑いする。 「ハッハ! 面白ぇ! いいぜ、とっととここまで上って来い。 どの道俺様がコートのこっち側に入れてやるのはお前だけだからな」 ただし、とひとつ付け加える。 俺様も待ってはやらねえ。 もっとずっと上に上がっていく。 その言葉に、巴も力強く頷いた。 当然だ。 そうでなくては意味がない。 「それじゃあ、練習再開するぞ」 「はい!」 |