細い腕だな。
そんなことを思った。
いつもよく働いているその身体は横たわり、細かいところまで感心するほどによく行き届く目もまた閉じられている。 消毒薬の匂いのする医務室のベッドで。
別に痩せすぎということもないのだろう。 多分、一般的な女子はこんなもんなんだろう。
問題は、その当たり前の事に自分が今まで気がつかなかったことだ。
こいつ、こんなにか細いんじゃん。
手加減なんて意識してなかったとはいえ、別に全力を込めたわけでもない。
だけど、簡単に静の身体は吹っ飛んだ。 まるで人形かなにかのように。
思わずこちらが正気に戻るほどにあっけなく。
そうだ。 いつも気楽な顔しか見せないから意識しなかったけど、この細い身体で人一倍働くってことは、実際には三倍以上の努力がいる。 守ってやるのが、かばってやるのが当たり前だったんだ。 気楽な顔しか見せないから、気付いてやれなかった。
自分がやってしまったのは真逆の行為。 閉じられた瞼。
……目が開いた時、俺を今までみたいに同じように見てくれんのかな。
今までみたいに屈託のない笑顔などはなくて、怯えの混じった視線だったりする可能性は充分にある。 それだけのことを自分はやったのだ。
考えなければならないことは他にもたくさんある。
当然事の次第は真田達にも届く。 全国大会へのメンバーから外されるという事態だってあり得るだろう。
だけど 今はそれすらどうでもよかった。
ただ、また彼女が自分に笑顔を向けてくれるのなら他の事なんてどうでもいいとすら思った。 彼女の笑顔が自分の前から消えうせるのがなによりも怖かった。
それが何の感情から起因するものなのか気づく余裕すらなく。
|