夏休みも終わりに近づいてはいるが、太陽は相変わらずお構いなしに強い日差しを投げかけている。 じっとしているだけでも暑いのに、学園祭準備で走りまわっている身としてはなおさらだ。 汗をぬぐいつつ静は本部ブースに足を踏みいれた。
決して強すぎない冷房が効いた室内の空気が心地よい。
「失礼します。 すいません、跡部先輩……」
続いて用件を述べようとしたが、跡部の耳には入っていなかった。 ぼんやりと窓の外を見ている。
珍しい。
珍しいが、しかしそのままその珍しい光景を眺めているほど静もヒマではないので再び声をかけようとしたその時、突然跡部が立ち上がった。 目線は窓の外を向いたままだ。
「あのバカ!」
そしてそのまま外に出ようとして、初めて静の存在に気がついた。
「ん? ああ、悪いがすぐ戻るからここで待っていろ」
それだけ言い捨てると走り去る。 あんなに慌てている跡部は初めて見た。
何があったんだろう?
立って待つのもなんなので近くにある椅子に腰を下ろす。 自然と先刻の跡部のように目線を外に向ける。
と。
そこに、目線の先に跡部がいた。
早い。 タイムをとっていなかったのが惜しいくらいのスピードだ。
駆けつけた跡部はそこにいた女子に何事か話しているようだ。
あの制服は確か青学。 髪の長い活発そうな印象の少女だ。 遠くなので話の内容はわからないがどうやら跡部が何事か彼女に説教しているようだ。
基本的に跡部は他人にそれほど干渉しないタイプだと思っていたので意外だ。 相手の少女がまた跡部の迫力におされていない。 何事か言い返した後、跡部の背を軽く叩いて笑っている。
あの跡部相手に。 大した心臓と言う他ない。
会話はすぐに終わったのか、まもなく跡部はその場を離れる。
「……あ、私が待ってるからか」
行きよりもだいぶ時間をかけて跡部が本部に帰還する。 もっとも、行きが早すぎただけなのでそれでも通常より少し早いくらいだ。
「待たせたな」
静の前に現れた跡部はもういつもの跡部だった。 息さえ乱れていない。
「いえ。 今の、彼女さんですか?」 「あ?」
静の言葉に跡部が不審気な目線を向ける。
「ですから、先ほどお話されていた子。 跡部先輩の彼女なんじゃないんですか?」
そこまで言われてさらに数秒後、やっと跡部にも誰のことかわかったらしい。
「ああ、巴のことか。 あいつはそういうんじゃねぇ。 今言われるまで女子だということも忘れかけていた」
「はあ、そうですか。 ……自覚なしですか……」
最後にぼそりと付け加えた静の言葉に跡部が片眉を上げる。
「なんだ?」 「いえ、別に。 喫茶店のシルバー類のリースに関してですが……」
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