「あー、暑ぃ暑ぃ暑ぃ!」 「グダグダ抜かしてんじゃねえ、武。お前の声を聞くだけでこっちは不快指数があがるんだよ」 「なんだと薫、もっぺん言ってみろ!」 「うるさいうるさいうるさーい! お前らふたりとも、暑苦しい!」 夏休みも終盤に差し掛かったとある昼下がり。 越前家では暑さにイラついた兄弟が階下でそれぞれに時間を過ごしていた。 各自涼しそうな場所を選って酷暑を乗り越えようとしているのだが、これだけの人数が集まればどうあっても暑い。 もっとも、開け放している一階はまだマシな方で二階の彼等の自室はさらに暑い。 結果このように暑苦しく階下に集まっているのだが。 「そうやって騒ぐのは非生産的且つ暑さを増長させるだけじゃないかと思うが」 「とか言ってる貞治兄さんが使ってるパソコン、熱放出してんじゃないの……」 ぼそりとリョーマが貞治に釘を指す。 ちなみに兄弟の一部は今現在片付けなければいけない宿題と格闘中である。 そしてその手伝いに借り出されている者も数名。 これがイライラに拍車をかけている事は間違いない。 「ただいまー!」 そこに、イライラという言葉とは無縁のような能天気な声が響く。 玄関先から姿を見せたのは言うまでもなく巴だ。 「英二、宿題終わった?」 その隣に並んで一緒に帰ってきたのは周助。 要領よく宿題を終了させている二人でテニスコートに行ってたようだ。 「終わるわけないじゃんー。こんな暑かったら頭も働かないって」 「自業自得だろう」 「英二も武も、だから早めに片付けておけっていったじゃないか」 「ったって今更もうしょうがねーじゃん」 「付き合わされるこっちの身にもなれ!」 「ま、まあまあ武も薫も、落ち着いて」 ……概ね平常運転である。 毎年夏の終わりに繰り広げられる風物詩と言ってもいい。 「モエりんと周助なんて薄情だからあっさり見捨ててテニスしに行っちゃうんだもんなー」 英二が恨めしげな目を二人に向ける。 当然慣れたものなので周助は動じもしない。 「悪いね英二。巴の方が大事だから」 言い切った。 相変わらずである。 「周助お兄ちゃんはともかく、私がいたってどうせ手伝えないじゃない。 代わりに、ってわけじゃないけど差し入れ買ってきたから休憩しようよ! 冷えてるよ!」 そう言って差し出したのは、ひと玉の大きなスイカ。 皮の表面に汗をかいているのがいかにも涼しげだ。 「おっ、スイカ?」 「適当に切り分ける? スイカ割りでもする?」 「スイカ割り! それもいいねえ!」 そういった事が好きなのでナイスアイディア、とばかりに盛り上がりかけた英二と武だったが、貞治のこの一言によってあっさりと意見を翻した。 「可食部分が減るぞ」 「海水浴に来てるわけでもねぇしな。止めとこう」 切り替えが早い。 確かに自宅でスイカ割りなど始めたらどんな大騒ぎになるか知れない。 後片付けに往生する事請け合いだ。 「じゃ、切り分ければいいか。……まず半分に切ってから、五等分……?」 「五等分は難しいだろ。適当に切り分けたらいいんじゃないか」 「そだね。大きいからタカ兄ちゃんに任せていいかな」 包丁を隆に渡す。 「……ぃよっしゃあっ! 行くぜ、バーニーング!」 「ちょ、ちょっと! 包丁でバーニングは止めて!」 「スイカが丸いからか……?」 「いや、狼男じゃあるまいし」 何はともあれ、手に取りやすい大きさに切り分けられたスイカにそれぞれが手を伸ばす。 ほのかな甘さと水気がなんとも心地いい。 「あー、生き返るなぁ」 「秀一郎、それオッサン臭い」 「武、テメェいくつ食ってんだ!」 「国光、塩取ってくれない?」 そして、全員が人心地ついたところで笑顔で秀一郎が締める。 「さあ、それじゃあ二人の宿題を片付けようか」 「……は〜い」 それが、越前家の夏の終わりの光景である。 「お、スイカか? いいねぇ」 「え……お父さんもいたんだ……ゴメン、もうスイカ殆ど残ってない……」 |