大型書店で、何気なく雑誌を見ていたところ、棚の向こう側に見えた顔に、あ、と思うと同時に相手と目が合った。 軽く手を上げるとこちらに歩み寄って来る。 「よう、奇遇だな」 跡部だ。 休日なので氷帝の制服もユニフォームも着てはいないが、元々目に付きやすい風貌なので見間違いようもない。 巴も、ぺこりと頭を下げる。 「こんにちは、跡部さん。 氷帝も今日は部活お休みですか?」 「ああ。 巴は今日は一人か、珍しいな」 「いえ、今日も――」 巴が全て言い終わる前に跡部と巴の間に書店の紙袋を握ったままの腕が差し込まれる。 そのまま二人の間に割り込んだのは、国光だ。 「――お兄ちゃんが」 「の、ようだな」 動ぜず最後まで言い切る巴に、跡部はわざとらしく肩をすくめて頷く。 言われるまでもなくもうわかりきっているが。 「油断も隙もないな、跡部」 「アーン? 別に隙を突いたつもりはねえよ。偶然だ偶然。 そんなに心配なら首に縄でもつけてくくっとけ」 「ちょっと……跡部さん……」 「俺が心配しているのはお前の行動の方だ。 言っておくが、お前のような素行も風体も派手な男に巴はやらんぞ」 かっちーん。 そんな擬音語が、聞こえたような気がした。 一方の国光は、こちらは初めから喧嘩腰なので変わりがない。 「別にくれと言った覚えはないし、貰う気もないが、参考までにじゃあどんなヤツならお前のお眼鏡にかかるのか、教えてもらいたいもんだな」 「俺も別に誰彼構わず否定するつもりはないぞ。 ただ初めから誤った選択をするのなら正すのが兄の役目だと思っているだけだ」 涼しい顔で何寝言言ってんの、という巴の言葉は耳に入っていないようだ。 「ほう、面白い。 じゃあ幸村あたりなら及第点か?」 「あんな腹の底が読めん男は却下だ」 「では真田」 「朴念仁相手では巴が苦労するのが目に見えている」 「……真田もお前にだけは言われたく無いだろうよ」 それは巴もまったく同感である。 「木手」 「人間性に問題がありすぎる」 「白石」 「遠方在住の人間などそもそも問題外だ」 「じゃあ、南は」 「常に貧乏くじを引いているような人間では心もとない」 「うちの忍足なんかはどうだ」 「危険すぎる」 「なら橘だと?」 「はいはい、いい加減にしてくださいっ!」 国光が口を開く前に、その口を巴が紙袋で強引に閉じる。 と、いうよりむしろ中に入っているのであろう本で顔を殴りつけたと言うほうが正解かもしれない。 その紙袋は先程手塚が持っていたものだ。 自分で凶器を買って来ていたことになるのか。皮肉な結果だ。 妹の暴力的行為に何事か言おうとした国光が、巴の冷たい視線を浴びて再び口を閉じる。 相変わらずの兄妹だ。 「このあと、スポーツショップも行くんでしょ? お目当ての本見つけたんだったら、もう行くよ。 跡部さん、失礼しました。……けど、あんまり面白がってうちのお兄ちゃん煽らないでくださいね」 自分より頭一つ分以上大きい国光を引きずって店内から立ち去ろうとしながら、跡部に頭を下げる。 「巴、ひとつ忠告しておいてやる」 「はい?」 「コイツの言うとおりに従っていたら、一生男に縁がないぞ」 皮肉を言う跡部に、巴はにっと笑う。 「ご心配なく! 好きな人ができてもお兄ちゃんに言う気は全くないですから!」 そう言い放つと、何事か言っている国光を無視して店から出て行く。 唇の端で笑うと跡部はその背中を見送った。 さすが、よくわかっている。 |