年末、年越しの準備で街はなんだかせわしない空気ですね。 師走、とはよくいったもので。 当然、いつも騒がしいここ、越前家もその例に漏れず普段に増してにぎやかそうです。 少し、覗いてみましょうか。 「お母さん、ごぼうはこれくらいたたいておいたらいい?」 あ、この声は巴ちゃんですね。 どうやらお節づくりの真っ最中のようで。 しかし巴ちゃん、……既にそれ少々叩きすぎな気も。 いくらたたきごぼうとは言え。 あと台所にいるのは……タカ兄ちゃんに英二兄ちゃん。おや、珍しく薫お兄ちゃんもいますね。 普段の食事当番には入っていませんが、臨時で助っ人でしょうか。 手伝いはたまにやっているだけあって危なげない包丁使いですね。 「タカ兄、ちょっと芋多すぎませんか?」 「うん、でも毎年きんとんはよく減るからね。 多めに作っておかないとすぐなくなっちゃうから」 「タカ兄ちゃん、私りんごきんとんがいい!」 「えー、やっぱり普通の栗きんとんだろ」 「ハハ、ちゃんと両方作るよ」 きんとん二種も作るんですか。大変ですね。 いやこの大量のさつまいもを裏ごしするだけでも大変そう。 「おーい、なんか手伝おうか?」 あ、武兄ちゃんですね。タイムリー。 「武兄ちゃんは、ダメ」 あれ? どうして? こういう単純作業は人を選ばないと思いますけど。 「武に手伝わせたら御重の中身半分になっちゃうじゃん」 あー、なるほど。 先週の双子の誕生日でも盗み食いしてましたもんね。 「うわ、英二兄ヒデェ」 まあ、日頃の行いじゃないですか、武兄ちゃん。 「それより武お前、自分の割り当てはもう終わってんだろうな」 「あ? 終わってねえのに来たりしねえよ」 あああ、この二人、仲が悪いのにどうしてこうすぐに絡むかな。 今ここで揉めて先週みたいな事にならないか心配ですね。 ……ん? 足音。 また誰か来ましたね。 「武、ここか」 「貞治兄さん。俺の割り当て終わってるっすよ」 台所に顔だけ覗かせたのは貞治兄さん。 ある意味この人も台所に入れると危険ですね。 手に雑巾を持っている、と言うことは残りの兄弟は大掃除担当って事なんでしょうか。 「やりなおしだ。あまりに乱雑すぎる。 四角い部屋を丸くはくとはよく言ったものだが汚れが溜まっている部分を避けて掃除しては意味がないぞ」 「えーっ!」 あ、引きずられて行きましたね。 どうりで早いわけです。 「フン」 「武、行った?」 「大丈夫みたい」 巴ちゃん、見送ってるのかと思ったら単なる様子見ですか。 「じゃ、ハム切ろうハム!」 「わーい、端っこもーらい!」 ……お重、大丈夫なんでしょうか。 さて、残りのお兄ちゃん方の様子も見てみましょうかね。 皆はどこに……あ、居間に分担表がありました。 しっかりしてますね。 まあ多分秀一郎兄さんですね、こういう事に気が効くのは。 どれどれ…… 「武、桟の隙間にほこりが残っている。 コンセント近くだからこれは結露による発火を引き起こす原因にもなる」 「わかった、わかりましたよ! 拭きゃいいんだろ」 武兄ちゃん、貞治兄さんに監視されちゃってますね。 しかしこう言ってはなんですが貞治兄さん、姑みたいですねえ……。 「あ、貞治。 悪いんだけどちょっとこっち手伝ってくれないかな。俺じゃ背が届かなくてさ」 あ、秀一郎兄さんですね。 真面目に掃除していたらしく二人がいなかった事には気づいてないみたい。 貞治兄さんが秀一郎兄さんの手伝いをしている隙に武兄ちゃん逃げなけりゃいいんですが。 さてと、さっきの表によると残りの三人は外ですね。 まずはテニスコートの方……いたいた。 お兄ちゃんがコートをならしているみたいですね。 普段からコートはある程度手入れしているみたいですけど、やっぱり毎日使ってますからたまに大がかりに手入れする必要があるんでしょうね。 土だから皆の使用に耐え切れずに凹凸ができちゃってる所もありますし。 幸い、今は季節がら雑草はないですが。 「国光、ネットの補修、終わったよ」 周助お兄ちゃんも来ましたね。 「ああ、すまない。大分傷んでいたからな」 「これでしばらくは大丈夫だと思うよ」 部活用具と違って部費でまかなえないから大事に使わないとですね。 なんせ家族全員が使うんですから消耗も激しそう。 「ところで、リョーマは?」 あ、それ私も知りたいと思ってました。 あたりを見てみましたが見当たりませんでしたよ。 「庭の掃き掃除をしている筈だが……ここに来る途中で見なかったか?」 「いや」 私も見ませんでした。 「…………」 あーあ。 お兄ちゃん眉間にシワが寄ってますよ。 これは十中八九どこかでサボってますね。このお宅寺だけあって庭も広いですし。 「昼寝でもしてるとしたらあっちじゃないかな」 周助お兄ちゃん、木陰の一部を指差してます。 でもなんでそこなんです? 「さっきあそこあたりで竹ぼうきの先が見えたから」 ……それじゃリョーマ君を見たも同然じゃないですか。 どれどれ……あ、ビンゴ。熟睡してますね。 早く起きないとエライ目にあいますよ。 「リョーマ!」 あー、手遅れでしたね。 さすがにお兄ちゃんの一声が飛ぶと飛び起きますか。 「自分の分担を放棄して昼寝とは感心しないな」 「う……どうせ、掃いたってすぐに落ち葉降ってくるんだし、意味なくない?」 その反論は逆効果だと思いますよ。 「言いたい事はそれだけか? では罰だ。町内二十周、走ってこい」 「げ!」 ほらやっぱり。 「あ、リョーマ。 当然掃除を終わらせてから、だよ?」 「マジ……?」 「大丈夫。夕食は先にすませておくから」 自業自得とはいえ、ご愁傷様です。 さて、台所の進行状況はどうなってますかね。 失礼しまーす。 お節はほぼ完了ですね。 中身もちゃんとあるみたいで一安心。 今は夕食の支度ですね。 あ、薫お兄ちゃん蕎麦打ちですか。本格的ですねえ。 「ふい〜。やっと終わったぜ」 あ、屋内掃除グループも終了したみたいですね。 今度こそ堂々と武兄ちゃん達が入ってきました。 「皆、終わったみたいだね。お疲れ様」 「周助お兄ちゃんもお疲れ様〜……あれ、リョーマ君は?」 多分、町内を走り始めた頃じゃないですかね。 もう、すっかり日も暮れましたね。 お父さんは鐘突きですか。年に一度のお勤めですね。 ……いえいえ別にこの時しか働いていないとは。 「蕎麦、出来たぞ」 「はーい、居間に持っていくね」 食事係と薫お兄ちゃん今日はほとんど台所にいっぱなしでしたね。 ご苦労さま。 除夜の鐘の音が響いてきました。 一年の終わりですね。 「今年一年、お世話になりました。来年も、よろしくお願いします!」 はい、来年もよろしくお願いしますね。 「……あー!」 「どうかしたの? 巴」 いきなりですね相変わらず。 「年賀状、まだ書き終わってないんだった! すぐ書かなきゃ」 「明日にすれば?」 「ううん、気持ちだけでも年内に書いておきたいから」 その心がけがあるんならもっと早くとりかかれば良かったのにねぇ。 まあ、あと少しみたいですし、頑張ってください。 「まて巴、男子に出す賀状の数が多くないか?」 「だって、今年お世話になったから」 「ほう……跡部や橘に何を世話になった? 詳しく聞かせてもらおうか」 「神尾のヤロウに年賀状なんか出す必要ねぇよ」 「……観月の住所なんてよく知ってたね、巴」 わあ周助お兄ちゃん目が怖いですよ。お兄ちゃん達も大人げない。 今年はミクスドの関連で色々な選手とお知り合いになりましたからねぇ。 「ああもう、うるさいなぁ! 邪魔しないでおとなしくテレビでも見てて!」 「……お前が自分の部屋でやればいいんじゃん」 「だって、皆居間にいるのに自分だけ部屋にいるの寂しいじゃない。 ……あれ、そういえばリョーマくんどこ行ってたの? 汗だくだけど」 「別に」 お疲れ様です。 あと残りわずかですが、やはり心静かに新年、とは行かないみたいですね。 まあそれでこそこの家という感じですが。 ではでは皆様、良いお年を。 |