「モエりんはいいよねー。素敵なお兄さんがいっぱいいて」 朋香が昼休みに何気なく言った言葉に巴は少しイヤな顔をした。 「あんまりよくないよ。 比べられるし、過干渉だし」 「ゼイタク。 うちなんてナマイキな弟ズだけだもんね。 ああ、いいなあ、リョーマ様と一つ屋根の下!」 結局のところはそれじゃないの。 そう思いつつ尚も反論する。 「本当にいいもんじゃないよ。 人数多いから部屋狭いし、プライバシーないし、しつこいようだけど過干渉だし!」 「あはは、心配なんだよ」 先輩達のシスコンっぷりは有名だからなあ、と思いつつ那美が相槌を打つ。 個人個人だけでも目立つが、人数が人数なのでまた目立つ。 入学して数日であっという間に巴は校内の有名人になっていた。 「そんなに心配されるほど危なっかしくないよ、私。……なんで変な顔するのみんな」 朋香や那美だけでなく桜乃まで困った風に目を逸らす。 巴にとっては心外である。 「ちょっと、そんなに、私って危なっかしい……?」 「自覚がないのが一番厄介よねー」 「と、朋ちゃん」 大げさにため息をつく朋香を桜乃がたしなめる。 あまり、救いにはならない。 「と、とにかく! 私がちょっと危なっかしいからってお兄ちゃん達みんながみんな心配してくれなくてもいいよ。 そんなだから彼女もも出来ないし、私も出会いがなくなっちゃうんだよ」 「アンタ、前に彼氏なんてまだいらないって言ってたじゃない」 冷静的確な朋香のツッコミにう、と言葉に詰まる。 「そ、そうだけど欲しくなったとしても、って事!」 正直なところ、兄達がいなくても巴のこの性格ではどんな出会いがあったとしても前途多難と思われる。 そう思ったが、那美は口にしない。沈黙は金である。 「先輩達は彼女出来ないんじゃなくて、作らないだけだと思うよ?」 「え」 代わりに那美が言った言葉に巴の動きが止まった。 さらに朋香が畳み掛ける。 「単にアンタに隠してるだけでいるかも知れないしね」 「えぇっ!?」 巴の眉が下がる。 と、そこで桜乃が止めに入った。 「もう、朋ちゃんも那美ちゃんも、あんまり巴ちゃんをいじめないの!」 「あはは、だってモエりんからかうと面白いから」 情けない顔を見せた巴を見て思わず吹き出した那美が目尻の涙をぬぐいながら言う。 笑いすぎである。 「ちなみにモエりん、先週の日曜日は誰と何してた?」 「周助おにいちゃんと買い物」 「今週の予定は?」 「……貞治兄さんとタカ兄ちゃんと薫お兄ちゃんと一緒にテニススクール」 大方予想通り。 ニヤっと笑うと朋香が巴の額を指で軽くはじく。 「エラそうに過干渉、なんていう前にまず自分が兄離れしなさいっての」 言い返すこともできない巴は恨めしげに朋香を上目遣いに睨むと食べ終わった弁当箱をしまいこんだ。 これを作ったのが英二だと口を滑らしたらまた何事か言われるのだろうと思いながら。 人の振り見て我が振りなおせ。 自分のことだけはよく見えていないものである。 |