誕生日に両親から贈られたものは 「まあ、来年からお前も中学生だからな」 自分だけの部屋だった。 納戸を改造したちいさなちいさな部屋だが、念願の自分だけの部屋である。 「ありがとう、お父さん!」 「ずっりー、モエりんだけー」 「まあ英二、巴は女の子なんだから」 口をとがらせる英二を秀一郎が苦笑気味にとりなす。 巴以外の兄弟は三人ずつで一部屋にまとめられているのでまあ英二の言い分もわからないでもないが、さすがに10人全員に個室を与えるわけにもいかないのでまあしょうがない。 やっかみまじりの声を受けつつ、初めて自室を手にいれた巴は浮かれきっていた。 確かに小さいけれど、小さいなりにスペースはある。 今まではできなかった部屋づくりができるのだ。 なのでぼそりと貞治が 「……確率、67%」 と呟いたことなど気づきもしなかった。 その夜、そろそろ眠りにつこうかという頃、薫がドアをノックする音に気づいた。 誰にせよ部屋に入るのにわざわざノックをするなんて珍しい。 扉を開くと、そこにいたのは、巴だった。 「あれ、もう寝たんじゃなかったのかお前?」 「もうこの部屋、お前の部屋じゃないんだけど」 同じ部屋の武とリョーマが巴の姿に気づいてそんな事を言う。 「そんなわけないじゃない! 間違えてないよ」 そりゃそうだろう。 でなければノックなんてしない。 「どうかしたのか」 薫が尋ねると、巴の眉が下がる。 「私の部屋、静かで落ち着かなくて……」 「バッカじゃないの? ひとりなんだから静かなのは当たり前じゃん」 一刀両断とばかりにリョーマが切り捨てる。 巴の眉が一層寄った。 「だって、今まではずっと武兄ちゃんのイビキが聞こえたりなんやかんやでうるさかったから」 「イビキ? んなの俺かいてねえよ」 「「「かいてるよ」」」 反論した武に一斉に突っ込みが入る。 自覚がない武は不満そうだったがあっさりと無視された。 「だから今夜だけ、こっちで寝てもいいかな」 「贅沢。こっちもお前がいなくなったんで広くなったんだよね」 やっぱりダメかな。 きびすを返そうとした巴の背後から、別の声が聞こえた。 「やはりこうなったか。データ通りだな」 「じゃあ巴、ボクたちの部屋にくる?」 「え?」 振り返ると、そこに居たのは貞治と周助だった。 データどおりということは、予測済み、ということか。 「別に、俺たちの部屋でもかまわないぞ? この部屋や英二がいる周助の部屋ほどうるさくはないが、一人よりはまだマシだろう」 確かに、年少部屋の騒がしさは他の追随を許さない。 ちなみにやかましさの原因の大半は、ケンカ、である。 最終的に国光にカミナリを落とされることもしょっちゅうである。 お兄ちゃんがいいのなら、それもいいかな、と思ったとき、さっきまで否定的だったリョーマが慌てたように口を挟む。 「兄貴たち、巴に甘すぎ。……別に、俺もダメだとは言ってないけど」 「ホント?」 「元々お前の部屋なんだ。別に好きにすればいいだろう」 「ま、そういうことだ。お前の布団持って来てやるよ」 三人の同意を得て、巴の顔が明るくなる。 「うん! ……あ、周助お兄ちゃん、貞治兄さん、せっかく言ってくれたのにゴメンね」 少し申し訳なさそうに言う巴の頭を、周助が優しくなでる。 「いや、かまわないよ。 じゃあボクの部屋には明日おいで」 「え?」 「じゃあ、明後日はうちの部屋だな」 「ちょ、ちょっと、明日からは多分、大丈夫だよ! ……多分」 と、否定しつつも段階を踏むにはそれもいいかもしれない、と少し思った。 この甘え癖はなんとかしなければなぁと思いつつも。 「ほれ、薫、リョーマ、布団しくスペース空けろー」 「命令してんじゃねぇ!」 毒づきつつも、すでに敷いてあった布団を寄せて巴が入るスペースを作る。 巴が枕元に置いた羊のぬいぐるみをちらりとリョーマが見た。 「……ガキ」 「なによ! おない年じゃない!」 「じゃ、幼稚」 「おーい、そのへんにしとけ。 ほら、電気消すぞー」 「はーい。……おやすみなさい」 その晩、ふと部屋を覗き込んだ南次郎は巴が元の部屋で、狭苦しく他の兄弟と一緒に寝ているのをみると、苦笑しながらゆっくりとまた扉を閉めた。 |