あの日のことは、みんな口にしない。 だけどアイリスはおぼえている。 きっと、いっしょうわすれない。 ……アイリスが、じぶんが死んじゃったときのことを。 本当はね、お兄ちゃん。 アイリスはお兄ちゃんのことをいつでも大好きだったけど、 お兄ちゃんがあやめお姉ちゃんをうったとき、アイリスはお兄ちゃんをひどいと思ったの。 こわいと、思ったの。 あの日の夜、お兄ちゃんはアイリスがねむるまでそばにいてくれたけど、 お兄ちゃんはやさしかったけど、 アイリスはそのお兄ちゃんを、にせものだと思ったの。 だって、お兄ちゃんは泣かなかったから。 あやめお姉ちゃんをうっても、お姉ちゃんがいなくなっても、泣かなかったから。 アイリスはかなしいときは泣いちゃう。 いやなことは、やだっていう。 だから、お兄ちゃんもそうだと思っていたの。 『せいまじょう』で、はなぐみのみんなが一人ずついなくなっていったときも、 お兄ちゃんはかなしそうだったけど、泣かなかった。 さいごに、こうぶがばくはつするそのときに、 アイリスのことをよぶお兄ちゃんの声が聞こえたような気がしたけれど、 それが本当だったのか、気のせいだったのか、おぼえてない。 ただ、たたかいが終わったときに、お兄ちゃんはアイリスをだきしめて、泣いた。 みんながいる前で。 声を出さないで泣いてた。 その時までアイリスは気がつかなかったの。 お兄ちゃんも同じなんだって。 お兄ちゃんも、本当はずっと、泣きたかったんだって。 また、さくらの花がさいて、もうすぐお兄ちゃんが帰ってくる。 こんどは、 お兄ちゃんが悲しいときも がまんしているときも わかってあげられるようになりたい。 まもってあげられるようになりたい。 ―――happy birthday!――― |