ゆきみが原高校。その校門前に一人の男子高校生の姿が見える。 女子校である此処には明らかに異質な存在で、放課後とはいえまだ生徒の数は多く、彼はかなりの注目を浴びている。 彼……龍麻自身、それが気になるようで少し赤い顔できょろきょろと辺りを見回している。どうやら誰かを待っているようだ。 「あ、龍麻さん、もういらっしゃっていたのですね。 ……ひょっとして、お待たせしてしまいました?」 正面玄関口から顔を覗かせたのは雛乃である。 「早く着きすぎたみたいだ。……やっぱりここは居心地が悪いな。 まあそんなことより、急に呼び出したのはどうしたの? なにか有ったのか?」 「何かあった、といえば大有りですわ。ただ、龍麻さんが思っているようなこととは違うとは思いますが。さ、こちらにいらして下さい」 雛乃にしては珍しくいたずらっ子のような表情を浮かべると龍麻を校内に誘い入れる。 「まだ結構生徒が残っているんだな」 「ええ、そろそろ追い込みの時期ですから」 「……追い込み? なんの?」 「おーい、ヒナ。 この裾のことなんだけど……って、ああっ! なんで龍麻くんがここにっ!」 教室から飛び出してきた雪乃が、龍麻の姿を見て凍り付く。 一瞬、顔が青くなったと思ったら今度は急激に赤くなる。リトマス試験紙のようだ。 一方、龍麻も目を点にして固まっている。 裾の長いドレス。しかも純白。 袖が膨らんでおり、全体に豪奢なレースがちりばめられている。 これは、見まごうことなく。 「ウェディングドレス……?」 驚いた様子の二人を見て、雛乃はくすくすと笑っている。 「ヒナ、さてはお前、龍麻くん呼び出したなっ! あれほど黙ってろって言ったのにっ!」 「だって、姉様ってば龍麻さんに見せる気はないっておっしゃるんですもの。 せっかくの姉様の晴れ姿、お見せしないでは私が後で恨まれますわ」 「ヒナが黙ってりゃ済んだんじゃないか!」 「あら、そうでしょうか? ゆきみが原の伝統行事ですもの。遅かれ早かれ、バレますわよ」 「龍麻くんは転校生だろうが!」 「……あの、話がうまく飲み込めないんだけど……?」 おずおずと二人の間に入る龍麻。 「あら、龍麻さん、失礼いたしました。 ゆきみが原では卒業記念製作として毎年ウェディングドレスを製作いたしますの。 で、私たちの班では姉様をモデルとしてドレスを作りしたので、是非龍麻さんにもお見せしようと」 納得すると同時に、雛乃の手を取る。 「……雛ちゃん、ありがとうっ!」 「ありがとう、じゃねぇっ!」 「ちなみに購買にカメラは売っていないのかな?」 「残念ながら」 「ふむ、外まで買いに行っていたらそれまでに逃げられそうだしなぁ」 「人を無視して話を進めるなぁっ!」 くるりと龍麻が雪乃の方を向く。 「どうして、雪乃は僕に見せたくなかったわけ?」 「それは…………っ!」 恥ずかしいしガラじゃないし、第一似合わないし……、とぼそぼそ小声で言う。 「可愛いのに」 「だーかーら、さらっとそう言うセリフを人前で吐くんじゃねぇっ!」 「……そうか、二人きりならいいのか……」 「…………龍麻、くん?」 「あ、ごめん、冗談。殴らないで?」 雛乃は満足げに二人の様子を見守っている。 「龍麻さん、このドレスは学校が保管してくれて、卒業生にはいつでも無料で貸しだしてくれますので安心ですわよ?」 「おお、それはありがたい」 「なんの、話だっ!」 「姉様、まだ仮縫いなので余り暴れるのは……」 卒業まで、あと少し。 |