「修学旅行? 僕は行かないけど」 あっさりと龍麻は言った。 「えええ〜! ひーちゃん行かないの? どうして?」 「そうだぜひーちゃん。ひーちゃんがいねぇと寂しいじゃねぇか」 「いやしかし……確かに、厳しいかもしれんな」 考え込むように醍醐が言う。 確かに男性として高校に通っている龍麻は修学旅行のような団体旅行は無理かも知れない。 「まあ、ちょっと残念ではあるけど。みんなで楽しんできてよ」 「そんなぁ〜」 「ふふふ、龍麻、一緒に行きましょう」 「いや、だから無理だって……」 「大丈夫よ、龍麻。私に任せてちょうだい」 いやに自信ありげに葵がそう言ったのは、修学旅行の一月前の話である……。 「…さすが生徒会長。ありがとう、葵」 「いいえ、龍麻の為だったら」 葵曰く「生徒会長の権限」によって、 部屋割りは京一、醍醐、龍麻で組まれ、女子の方は本来3人以上の組のはずなのに小蒔と葵の二人部屋。 いったん部屋に行ったフリをして龍麻に女子の部屋へ行って貰うという計画だ。 あげく、葵達の部屋は浴場に一番近く、なおかつ入浴順は一番最後というきめ細かさ。 「ねえ、葵…。 さすがに生徒会長なだけじゃここまでできないような気がするんだけど…?」 「ふふっ、小蒔。 世の中には知らなくていいことも存在するのよ」 「……分かった……」 ちょっとこの友人を怖いと思う今日この頃の小蒔。 「おいっ、小蒔、小蒔!」 小蒔が振り返ると、京一が小声で小蒔を呼び寄せている。 「なんだよ、京一」 京一は当たりを見渡しながら小蒔に使い捨てカメラを手渡した。 「これでちょちょいっとひーちゃんの寝顔を撮っといてくれねぇか?」 「…最低…」 「頼む! 礼はするから!」 さんざん頼まれ、根負けの形で小蒔は京一から使い捨てカメラを受け取った。 「ったく、どいつもこいつも」 小蒔の鞄は、すでに使い捨てカメラがいくつかはいっていたりする。 まあそのあとの自由行動やすったもんだは、ゲーム中で詳しく書かれているので割愛(笑)。 「ああああぁ、旅行に来てまでこれだから。疲れた」 部屋に戻った龍麻が大きく伸びをする。当然、女子の部屋だ。 ちなみに龍麻はきっちりちゃっかり正座を免れている。 「じゃあ、もう今日は早めに寝てしまいましょうか」 と、いうと同時に布団を敷きはじめる葵。 何だか妙にうきうきしているように見えるのは気のせいだと思うことにする小蒔。 なにも気付かない龍麻。 そして翌朝。 「おはよう! 美里さん、小蒔……ってええっ!」 言うと同時に扉を開いた同級生が凍り付く。 「あ、あの、これはね、ちょっと…」 飛び起きた小蒔が慌てて隠そうとしたがもう遅い。 彼女はしっかりと龍麻を視線にとらえてしまっていた。 疲れてがまだ残っているのか、まだ起きる様子がない。無防備に寝返りを打つ。閉じた瞼に、長い睫。 同級生を含む3人が思わず見とれてしまう。 「……そうだったの……。大丈夫! 誰にも言わないから! で、どっちが呼んだの?」 「いや、だからね、」 「あ、おじゃましちゃ悪いわよね。それじゃ〜」 足早に彼女が去っていくと、小蒔はその場にへたりこんだ。 「完全に誤解されちゃったよ〜」 誤解が嬉しかったので黙って聞いていた葵。 うまくいいわけしようと思ったが間に合わなかった小蒔。 何も知らずに寝ている龍麻。 当然、その後の修学旅行中、いや、その後もしばらく 真神学園三年生女子の内で 「美里葵と桜井小蒔のどちらかが旅行中部屋にあの緋勇龍麻をつれこんだ」 と、言う噂が駆けめぐったのは言うまでもない。 そして、修学旅行以降、小蒔はしばらく裕福だった。 げに恐ろしきは女子高生。 戻る |