「龍斗、こっちだ、早く早く!」 少し先で、劉が手を振りながら龍斗を急かす。 「う……わぁ………」 思わず知らず感嘆の声を上げる。 予想通りの反応に満足そうな表情を見せる劉。 劉と一緒に旅をするようになって、数ヶ月になる。 さすがに劉はあちこちの事項に詳しかった。 毛色の変わった旅人二人がさしたる問題もなく旅をつづけてこられたのも、ひとえに劉のおかげである。 何しろ、龍斗は言葉も全く通じないのだから。 「王の為だけに造られた宮殿だ。どれだけの金が使われているのかは知らないが、馬鹿馬鹿しいな」 「へえ。……そう言えば、俺の国にもあるよ、黄金で作られた祠が。まあこの目で見たことはないけれどね」 龍斗の口から発された日本の話に、少し劉が眉を寄せる。 「……? どうかしたのか? 劉」 「故郷に……帰りたく、なったのか?」 一緒に旅をするときにした、たったひとつの約束。 お互い、故郷に戻りたくなるまでは一緒にいよう、と。 故郷を恋しく想うようになったら、別々に別れようと。 「いや、確かに懐かしくは感じるが、今はまだ世界の方に興味がある。 自分の知らないことがあまりに多くて、発見が多すぎて、振り返る暇がない」 龍斗の言葉に、ほっ、と、息を付く。 ここしばらくずっとそうだ。 自分から言い出した約束。 なのにいつ別れを言い出されるかと思うと怖くてたまらない。 恐れの気持ちは日に日に膨らんでいく。龍斗と一緒にいる時間が、あまりに幸せすぎて。 この素晴らしい時が有限の時だということが、怖い。 「まだ郷愁にとらわれるには早いみたいだ」 劉の想いに気が付いているのかいないのか。 龍斗は悠々としたものだ。 この国は暑い、などといいながら強い日差しから目を避けるために手をかざす。 「……なあ、龍斗」 「今度は何だ?」 「前に言った言葉、少し取り消してもいいかな」 「?」 「いつか、ふるさとが懐かしくなって、帰りたくなったら、二人で行こう。 交互に行き来したっていい。 ずっと、一緒にいよう。……我儘かな」 ずっと考えていたこと。 精一杯の譲歩。 一緒にいるために、どうすればいいのか、ここの所考えた末の答。 龍斗は、少し驚いたように劉を見返したが、やがて、少し微笑んだ。 「我儘というか、壮大な話だな。 海をまたに掛けて行き来するのか?」 他の誰も、そんなことは思いもしないだろう。 異国に行くと言うだけで、それはほぼ二度と戻ることがないと同義の言葉なのに。 「でも、まあ。……それも、ふたりらしい」 〜終〜 戻る |