ひとつ、溜息をつく。 ここのところの毎日の日課になってしまっている。 鏡を見て、昨日と何一つ変わらない自分。 小さな、幼い少女の自分。 それを確認して、軽い絶望の溜息をつく。 きっかけは、いつだったのか。 出かけ際に忘れ物をしてしまい、一度戻って再び龍麻のところに行った時、 葵と話している龍麻を見た時だ。 何の話をしていたのかはしらない。 ただ、葵お姉ちゃんと二人でいると、龍麻は恋人同士のように見えた。 マリィと一緒にいても、龍麻はお兄ちゃん、保護者にしか見えない。 「マリィだって、本当は、16なのに……」 マリィにも本当は、わかっているのだ。 精神も、身体も、薬で成長を止められていた自分はやはり子供だということを。 16という年齢は、只の日数の問題であって成長の度合いではないことを。 龍麻は、時折マリィの頭を軽くなでる。 それは、そのこと自体は嫌いではない。 むしろ、そうされていると嬉しい。 だけど、龍麻は葵お姉ちゃんや小蒔には、そういうことはしない。 多分、マリィが16の身体だったら、マリィにもそういうことは、しない。 「マリィ、どうかしたの?」 心配そうに葵お姉ちゃんが訊いてくる。 けど今だけは葵お姉ちゃんを見るとちょっとくやしい。 「ううん。なんにもない。 マリィ、ちょっとでかけてくるね」 それだけ答えると、足早に家を出る。 龍麻に……お兄ちゃんに会いたい。 今日は日曜日なので多分龍麻は家にいる。きっといる。 そう予測をたてて龍麻の家に向かう。 息を切らせて龍麻のアパートに到着し、部屋の呼び鈴を押す。 再び押す。 再び押す。 ……出ない。 「遊びに行っちゃったのかなぁ……」 その場に座り込む。 もう、心当たりはない。 ここにくれば龍麻がいると思っていただけに途方に暮れた。 メフィストが、小さな鳴き声をあげると、マリィの手の甲をなめる。 「メフィスト……心配してくれてるの?」 そっと、抱き上げる。 この世にメフィストと自分しかいないような気になる。 『学校』に居たときは、本当に一人だったのに。 今は、葵お姉ちゃんもパパもママも、お友達もみんないるのに。 いつからマリィはこんなにワガママになっちゃったんだろう。 「……あれ? マリィじゃないか」 即座に顔を上げる。 一番、会いたかった顔。 手にはスーパーの袋。買い物に行っていたみたいだ。 「龍麻」 「どうしたんだい? 一人で来たの?」 「…………マリィが一人で来ちゃ、悪い?」 「いや、そんなことはないけど。よく来たね」 そういっていつものようにマリィの頭をなでると龍麻は部屋のドアを開ける。 「龍麻」 「ん?」 「龍麻は……マリィが大人になるまで、待っていてくれる? マリィ、頑張ってすぐに大きくなるから。早く大人になるから」 突然のマリィの言葉に、龍麻は微笑を浮かべながら答えた。 「マリィ、僕だってまだまだ子供だよ。 急いで大人になる必要なんて無い。一緒に、ゆっくり大人になっていこう」 いつか、二人がおとなになったときには、……きっと。 〜FIN〜 戻る |