囀る小鳥の声で目を覚ます。 薄目を明けるとまだ当たりがほの白くなるかならないかの境目といった案配だったが、 九桐はゆっくりと伸びをして起きあがった。 この極上の目覚ましがあるから彼は野宿も別に苦と感じたことはない。 龍斗ならば、どうだろう? 同じように鳥の声を聴いて満足するのだろうか。 それとも、やはり土の硬さの方に意識を持っていかれてしまうのだろうか。 そんなことを考える自分に苦笑して、 九桐は保存食だけの簡易な朝食を済ませ、また歩き出す。 『龍斗ならば……』、そんなことを何度考えただろう。 幽谷の景色を見たとき、山の中で嵐に出くわしたとき、人との出会いに触れたとき。 無意識にそちらへ考えを向けてしまう自分にはじめは少しばかり狼狽したが 今ではずいぶん慣れた。 闘いが終わり、皆と、龍斗と別れてからしばらく経つ。 今までの自分の目標としてたもの、目的としていたものが失われてから。 これからは、何をしようか、何をするべきか。 もちろん、当面にすることは多くあった。 しかし、彼が求めているのは当然そんな目先のものではない。 これから先の長い長い時を生きていくにおいての指針である。 「もうすぐ宿場町か。……久しぶりに、屋根の下で寝ることになりそうだな」 なんとなしに、左手首に目をやる。 黒い、数珠。 旅立つときに龍斗がくれたものだ。 今現在龍斗がどこにいるのか、何をしているのか九桐は全く知らない。 そして、自分自身がどこに行くのか、いつ帰ってくるのか、いつか帰ってくるのか、 何も言わなかった。 それで、いいと思う。 対の数珠の言い伝えが本当ならば、またいずれ会えるのだろうし、 もし、そうでなくとも会いたくてしょうがなくなったなら探せばいいだけの話だと思う。 みつからなかったら? ―――その時は、探し続ければいい。 じゃあ逆に、 龍斗に会ったら、自分はどうする? ―――旅を止めてしまうのか。 共に歩むことを選ぶのか。 それとも、また別れを選ぶのか。 何となく分かるのは、ひどく自分は嬉しいであろうという漠然とした予感だけ。 町にたどりつく。 雑踏の中で龍斗を思わせる人影をなんとなしに目に留めるようになったのも、 いつのまにかの習慣だ。 目に留まった後ろ姿の一人が振り返る。 驚いた様子もなく、ただ微笑む。 まるで待ち受けていたかのように。 答は、まだ、でていない。 〜終〜 戻る |