初めて円空と会ったその日、一人引き返した龍斗が気に掛かり、小鈴はそっと後をつけた。 直感だったが、おそらく円空と龍斗は、初対面ではない。 「元気そうじゃな」 「ああ、おかげさまで」 冷笑を浮かべて答える龍斗。 円空はそんな龍斗にかまわず続けた。 「……よい仲間に巡り会えた様じゃ……」 「仲間? それはお笑い種だ。 全てあんたが仕組んだことだろうが。 ……すべて、あんたが徳川と組んで」 一見、いつもと変わらないようにも見えるが、明らかに龍斗は苛立っていた。 龍閃組にいるときには見せることのない、……まるで、自分達と同じように、感情が露に表に出ている。 「それは違うぞ、龍斗」 「何が」 「わしは、真実のところはどちらでもよかった。 お前が徳川につくか、それとも、鬼になるか……どちらでも。 ただ、お前がいる場所を、お前自身を求める者のところに行ければ、良いと、そう思っておった」 「勝手なことを……」 「そう、勝手じゃ。 一度わしはお前の手を離した。 だからお前のことに干渉する権利も資格も、ない」 ただ、円空は穏やかに笑うだけ。 それが、龍斗にはどうしようもなく癇に障るらしい。 「結局のところ、あんたは俺に何を求めていたんだ」 「なにも」 鬼子。 龍斗を救ってやることは、自分には出来ない。 それを成すことは、龍斗自身にしか出来ない。 ならば、自分には何をしてやれるか。 何もしてやれないのならばせめて、きっかけくらいは与えてやりたかった。 「龍斗、待ち人は、見つかったか?」 謎かけのような円空の言葉。 龍斗はすでに背を向けていた。 「俺は、今も、そしてこれからも………一人だ。待ち人など、いる筈も無い」 「そんなことないよ!」 思わず、小鈴がその場に飛び出したが、龍斗は眉一つ動かさなかった。 そこにいることに、いつから気がついていたのだろう。 「じゃあ、行くか」 「ちょっと待ってよ、ひーちゃん!」 立ち止まり、横目で小鈴を見る。 一瞬ひるんだが、そのまま小鈴は続けた。 「なんで一人なのさ。ボクたちが、いるじゃないか」 「おめでたい子犬だ」 「こっ……! 失礼だな!」 「盗み聞きは、失礼とは言わないのか?」 言葉に詰まる。 「だって……。 ひーちゃんは、本当に一人だって、そんなこと思ってるの?」 「思っている、ではなく、事実だ。ただそれだけだ」 「……ボク達は?」 再び、歩を進める。 慌てて後についていく。 「ねぇ、ボク達は、仲間じゃないの?」 「単に成り行き上行動を共にせざるを得ないだけだ」 「嘘だ! ひーちゃんは、本当は怖いだけじゃないの」 「……なんだと」 龍斗の形相が変わる。 怖い。 少し怯んだが、かまわず言葉を継いだ。 「一人だ一人だって言うのは、結局誰かを失うのが怖いからじゃないか。 仲間と認めて、それを失くしちゃうのが怖いだけじゃないか」 少しの沈黙が走る。 冷徹な龍斗の視線を、そらさず小鈴は睨み返した。 ……結局、視線を逸らしたのは、龍斗だった。 「くだらん。 弱い犬ほどよく吼える」 そう言うと、龍斗はまた歩いていく。 とっさに出た言葉は、確信に変わった。 慌てて龍斗の後についていく。 歩幅がまるで違うので小鈴は少し小走り気味にならないと置いて行かれてしまう。 龍斗はまったく気を使ってはくれない。いつも。 失わない。失わさせない。 ボクは、ボク達は仲間だ。 〜終〜 戻る |