雑記




四月某日
曇天。
奇妙な客が訪れる。
武器を数点購入。この地を乱すものでなければよいが。
注意要。


 彼女が店に入ってきた瞬間から、目を引いたのは確かであった。
 自分と同年代の若い女性だったからではない(購買層ではないがそういう客はよくここを訪れる。甚だ迷惑なことであるが)。
 ガクラン、男物の制服を着ていたからだ。
 長身で中性的な顔立ちをしているためひょっとしたら周囲の人間は気が付いていないのかも知れない。

(あの制服は……確か、真神か)

 武器を購入していったこともあり、少し気にかかったが、武器を購入していく客は別に初めてではない。
 これといって興味は覚えなかった。



五月某日
晴天。
例の集団がまた訪れる。
また武器を数点購入していく。何に使用しているのかは不明。


 それほど繁盛しているとは言えない店だが、彼女が来るようになってから店を開く回数が増えた。
 単に彼らがよく来るのだ。

 はじめは真神の生徒だけだったが最近になって神代高校や鈴蘭看護学校の生徒も混じるようになった。
 個性が強くバラバラのように感じる集団だが、一様に『力』を感じる。

 店での彼らの会話から、どうやら彼女の名前は『タツマ』と言うようだ。
 やはり、男性として生活しているらしい。



五月某日
晴天。
店を閉めるまぎわにまた例の客が来る。


 今日は、タツマが一人で来店した。
 いつもは武器のみを物色しているが、今日は骨董を眺めている。
 しかし、目は品を見つめているが心ここに有らずといった感じが伺える。

 憂いを秘めた眼が妙に気にかかる。



六月某日
曇天、後にわか雨。
特に変わりなし。


「いらっしゃい」

 逢魔が時、タツマが姿を現した。
 彼女が一人で来店するときはだいたいこの時間だ。 

 店の中に入りしばらくして雨が降り出した。

 いつもの通り、言葉を交わすこともない。つもりだった。

「……君、その血は」

 肩か腕でも傷つけたのだろう。袖口に血の染みが出来ている。
 指摘を受けても、タツマは無表情に袖口を一瞥しただけで、なにもしない。


「うちにも傷薬くらいはある。手当をした方がいい」

 しかし、タツマはうつむいたまま首を横に振った。

「……血で品物が汚れるといけないな。今日は帰る」
「その血は目立つのではないか? そのままにしておくのは得策とは思えないが」

 引きとどめたつもりだったが、タツマはそれも拒否した。


「幸い今は雨が降っている。
 ……雨が全て、流してくれればいい」


 もう、それ以上は強行にとどめるわけにもいかなかった。
 所詮、自分と彼女は只の店主と客である。 
 せめて傘を、と思ったが、これ以上拒絶の言葉を聞きたくない気がしたので黙っていた。


「では、気をつけて帰りたまえ」
「悪かった」

 出入り口まで来たときに、不意に彼女は振り返った。
「…………君は、目の前で唐突に大切な者を失ったことが、あるだろうか?」
「……え?」
「いや、いい。失礼」


 扉が閉められる。
 雨の中を歩く足音が聞こえる。


 何故、今日の彼女はあんなにも傷ついた瞳をしていたのだろう。
 何故、あんな怪我をしていたのだろう。
 何故、何故、何故。

 ……何故、今この時に此処に来てくれたのだろう。


 何も訊くことは出来ない。
 自分が彼女の仲間であったら、悩みを聞いてやることが出来たのだろうか。


 通り雨は、すでにやんでいる。




あとがき

如月ふられバージョン(笑)。
龍麻が暗いです。
単に雨の中濡れて帰る龍麻、この情景が書きたかっただけという噂(笑)。
いつもの私の書く龍麻より暗いですが単に「恋唄」の話の後だから。