「……また来やったのか」 「悪いかな?」 そう言いながらも全く立ち去る様子なく龍斗はくつろいでいる。 あえて追い返す気にもならない。 「この家にやってくるのは、御館様以外ではそなただけじゃ。ほんに物好きな」 嫌味のつもりで言った言葉であるが全く龍麻には通じない。いや、通じているが敢えて通じない振りをしているのかも知れない。 ひとつ、伸びをする。 「ここは天井が高くてさ、広くて。居心地がいいんだよ」 「別にそなたの居心地の為にそうしているわけではない。必要にかられてだけの事じゃ」 「そりゃそうだ」 快活に笑う。 家というのはそこにいる一人の人間だけでこれほどまでに雰囲気を違えてしまうものなのだろうか。 自分一人の時には、いや、御館様がいらしている時も、此処は静寂が場を支配していた。 そして、自分もその静寂を愛しているはずなのだが。 なにより気になるのが、龍斗が来るとガンリュウが心なしか嬉しそうに見える。 むろん、そう見えるだけなのだとは分かっているが。 「そなたはこの屋敷が、ガンリュウが……このわらわが、恐ろしゅうはないのかえ?」 何と無しに訊いてみた。 龍斗は奇妙な顔をする。 「恐ろしい? 何故」 「村の人間は此処には近寄らぬ。ガンリュウを見ると子供は泣く」 「ははははは。確かに子供にとってはガンリュウは怖いだろうなぁ」 また笑う。本当に良く笑う御仁だ。 「……でもさ、俺はガンリュウを怖いと思ったことはないな。 屋敷はさっきもいったように居心地がいいし、こうして雹と話をするのも好きだ。 だから、ここに入り浸る。それでいいんじゃない?」 そこまで言ったところで、急に龍斗はあわてて奥の部屋に駆け込んだ。 一体どうしたというのか。 理由はすぐに分かった。 「おいっ! たんたんっ! どうせ此処にいるんだろうが! 早く来い!」 この怒声は風祭のものだ。 「おう、雹。 たんたんいるんだろう? あいつ今日俺と屋敷の掃除頼まれてたのにさぼってやがる」 雹は無言で奥の部屋を指さした。 風祭が部屋に駆け込んでいく。 「たんたんっ! てめぇ一人だけ逃げるとはいい度胸じゃねえか!」 「うげっ! 雹! ばらしたな?」 「……わらわはかくまってくれと頼まれたわけでもないし、ましてや匿う気もないぞえ。 あきらめて、掃除に精を出しやれ」 そして、一言付け足した。 「館は逃げぬ」 こんな風に、龍斗が来るようになったせいで他の鬼道衆の面々も良く此処に顔を出すようになった。 すこしずつ、すこしずつ日常が変わっていく。 「本当に、物好きな……」 その価値の是非を決めるのは、自分自身。 戻る |