雑踏の中を歩く。 たまに、ぽつりぽつりと話をしながら。 今日は富士に行く前の、最後の休日である。 涼浬は龍斗に誘われて、何ということもなく内藤新宿を歩いている。 あまり、涼浬は人と話すことが得手ではない。 それでも、言葉を選びながら少しずつ、いろいろな話をする。 龍斗は、それをいつもちゃんと聞いてくれる。 「少し、休もうか?」 茶屋の軒先で、腰掛けると団子とお茶を注文した。 外は常夜であるので一風変わった風景である。 「……どうして、今日は、私を……?」 「ん?」 「たまの休日に私を誘われた意図が分かりません」 口にしていた団子を飲み込み、お茶を一口飲んでからゆっくりと龍斗が答える。 「せっかくの休日だから、だけど?」 「私を誘ったことによって貴方に益があるとは思えませんが」 あいかわらずだな、と龍斗は笑う。 「益があるとかどうとかそんなことはどうでもいいんだよ。 ただ、休日に涼浬と一緒にいたかったから誘った。それだけだよ?」 「龍斗殿……」 端から見ていると何となくいい感じの初々しい二人である。 が。 「玄武陰水!」 「うわっ!」 間一髪で攻撃を避けた龍斗は攻撃の向かってきた方向に向き直った。 「なにしやがる奈涸!」 「……羽虫を始末しようとしたのだが、どうやら外してしまったようだ。」 何食わぬ顔で姿を現す奈涸。 「誰が羽虫だ」 「君以外に誰がいる? 妹に近づくのは止めてもらいたい」 つかつかと龍斗に詰め寄る。目が据わっている。 「ときに、以前君は涼浬の風呂を覗いたことがあるそうだな」 龍斗の顔が朱に染まる。 「あっ、あれは、不可抗力で……」 「不埒千万問答無用! 邪妖滅殺、真飛水流奥義玄武瀧天昇!」 「人の話を聞け!」 一瞬、黄龍の構えを取ろうとしたが、さすがに町中で衆人の目前でこの大技を放つと危険である。 「ごめん、涼浬。この借りはまた今度!」 ……三十六計逃げるにしかず。 右手を軽く挙げて涼浬に挨拶をすると龍斗は脱兎のごとく走り去った。 「ふん、逃がしたか」 「…………兄様?」 ふりかえって奈涸がぎょっとなる。 相変わらずの無表情。だが、確実に涼浬は怒っている。 「いや、待て鈴浬。俺はお前のためを思ってだな……」 「問答無用、そう言って龍斗殿に攻撃を仕掛けたのは兄様でしたね?」 現在奈涸のレベル48。涼浬65。 「御覚悟! 飛水流奥義脇添・流剋刃!」 「……なあ、嵐王」 「なんだ?」 「よくしらねーけど、隠密ってのはあんなに派手でいいのか?」 「……何故それを私に聞く……」 「ボク、今思わず『平和だねぇ』とか思っちゃった」 「Oh,俺もそう考えてしまったところだよ、小鈴」 最終決戦まで、後少し。 戻る |