「……ここに、いたのか」 屋上の真ん中にぽつんと座り込んでいた醍醐を見つけた龍麻は、 極力いつものように声をかけた。 「ああ、龍麻か」 振り返り、答える。 その表情はやはり、浮かない。 佐久間が失踪してから、数カ月が過ぎた。 ……失踪と言うことになっている。 自分たち以外の誰も知らないが、今日は……佐久間の月命日なのだ。 「本当に、これで良かったのだろうか」 ぽつり、と醍醐が呟く。 「あいつの家族は今も佐久間を捜しているだろう。 本当は、俺が殺したのに。帰ってくるはずもないのに。 ……こんなにのうのうと大手を振って暮らしていて、いいのだろうか」 自分の中の獣が目覚めしてしまってからは、半分夢の中にいるようだった。 しかし、それでもはっきりと覚えているのだ。 自分が彼の命を奪ってしまった瞬間を。 龍麻は、何も言わない。 「罪を犯してしまった俺が、何かを護ることなどできるのだろうか? 俺には、……わからん」 とん、と背中に感触を感じた。 龍麻が、醍醐の背にもたれかかって座り込んだのだ。 「……ごめん」 醍醐に法の下で罪を償う機会を与えなかったのは、自分だ。 罪の意識を抱えながら自由の身で暮らすのは、 人によっては法で裁かれるよりももっと、辛い。 「龍麻」 「僕の我が儘だ、……ごめん。 だけど、これだけは、これだけは言える」 醍醐の背に隠れるようにして、言葉だけを紡ぎ出す。 誰よりも安心できる、この背中。 「醍醐が誰かを護れないなんて事はぜったに無い。 だって、僕たちは、……僕はずっと、醍醐に護られてここまできたんだから。 それを、僕は知っているから。 醍醐がいつも護っていてくれたから此処まで来れたということを、僕は知っているから」 背中合わせでは、表情も見えない。 ただ感じるのはその言葉からの精一杯の想いと、背中から通じる体温。 この罪の意識から放たれることは、多分、ない。 あってほしくない。 だけど、後悔だけはしたくない。 自分を分かっていてくれる、ただ一人のために。 〜FIN〜 戻る |