Q.貴方の傍らで龍麻が爆睡しています。
  どうしますか?

 1.起こす
2.起こさない
3.それとも・・・





○美里葵○

「……龍麻ったら眠ってしまったのね。…………ふふふっ」
 ふと何かに思い至ったようにその場を去る葵。

 しばらくして再び龍麻の所に戻ってくる。
「……ん? ああ、眠ってしまっていたのか……。あれ、葵」
「あら、起きてしまったのね、龍麻。おはよう」
「おはよう。それはいいとして、何で琴なんかもってるんだ?
しかもそれって……ひょっとして枯野の琴……?」
「ふふふっ、気のせいよ、龍麻」

「…………」

 危ないところだったね、龍麻(笑)。

※枯野の琴・・・古事記に記された木船からつくられた琴。複数の相手を魅了する。



●蓬莱寺京一●

「ひーちゃんっ! 起きろぉ!」

「うわっ! なんだ?」
 いきなり大声を出されて跳ね起きる龍麻。

 しばらく状況が把握できずに混乱していたが、やがて憮然とした表情になった。
「なんだ。人が気持ちよく眠っていたのに」

 そんな龍麻に対していたずらっ子のような表情で京一は笑いかけた。
「だって俺、寝ているひーちゃんも好きだけど
起きててこっちを見ているひーちゃんの方がずっと好きだからな」

「……頼むから、素面でそう言うセリフは勘弁してくれ……」



○桜井小蒔○

「ねえひーちゃん、……アレ?」
 横を見ると、龍麻は眠ってしまっている。
「うそ、寝ちゃってるよ」

 まじまじと龍麻の顔を見る。
 じっと顔を見る機会なんてそうそうない。
 少し硬めの髪、長い睫。

「…………ひーちゃんのばかあぁっ!」

 いきなりの叫び声に跳ね起きる龍麻。
「え! 何? どうした小蒔?」
「どうして女のボクよりもひーちゃんの方が寝顔が色っぽいんだようっ!」
 叫ぶとその場を駆け去る小蒔。

「………………は?」 



●醍醐雄矢●

「こんな所にいたのか、龍麻。……ん?」
 放課後の教室。
 醍醐の席で龍麻は眠りこけていた。

「…………」

 しばらく考えた後、醍醐は龍麻を起こすのはやめにして
自分の着ていた学ランを龍麻の背にかけた。
 前の席に座り、龍麻の顔を見る。

 龍麻が転校してきてからというもの、闘いばかりの日常である。
 そんな中での一時の安らぎを、邪魔したくなかった。

「龍麻、今は俺がいる。護ってやるから、ゆっくりと休め」

 ……眠ったままの龍麻が、少し微笑んだように見えた。



●雨紋雷人●

「……龍麻サン。寝ちまったのか」
 ライヴの帰りの電車の中、肩に掛かった重みに目を向けると
龍麻は穏やかに寝息を立てていた。

 肩に掛かる重みが気恥ずかしい。

 ためらいながら、雨紋はそっと手を伸ばし龍麻の髪に触れた。
 指の間を通る龍麻の髪。

 ただそれだけでバカみたいに浮かれている自分に雨紋は気が付いている。

「……『CROW』の奴らにゃ、見せられねぇ姿だな……」



○高見沢舞子○

「ダーリン」
 声をかける。
「……ダーリン」
 もう一度声をかける。返事はない。

 いい天気の休日。
 風は優しく吹いている。

 こんな日は公園にいる他の「おともだち」も心なしか落ちついているように思える。

 膝の上で子供のように眠ってしまっている龍麻を見て、舞子は幸せそうに微笑む。

「ありのまま、全部で舞子を認めてくれたのは、ダーリンだけだったんだよ……」



○藤咲亜里沙○

「龍麻ったら……こんな美人と一緒にいて居眠りなんて、失礼ね」
 座ったまま寝ている龍麻のすぐ横に自分も座り込む。
 もたれかかるように密着しても、眠ってしまっている龍麻は
いつものように照れて離れたりはしない。

「まあ、こういうのも、たまにはいいかな」

 自分でも思う。
 龍麻と一緒にいるときの自分は、あの初恋の時の、
まだ絶望もなにも知らなかった自分に戻っているのかもしれない、と。 



○裏密ミサ○

 放課後。
 教室で誰かを待っているうちに眠ってしまったのだろうか、
机に突っ伏して龍麻が眠り込んでいる。

「ひーちゃん、眠ってるの……? ふふふふふ〜」
 しかし、裏密が半径1M以内に近づいた途端にがばっと跳ね起きる龍麻。

「……残念〜。勘がいいのね、ひーちゃん〜」
「いま、強烈な悪寒が……」

 さすがにそこまで無防備ではなかったようだ。



●紫暮兵庫●

「……ん?」
 ふと振り返ると龍麻が寝息を立てている。
「龍麻、こんなところで眠るな。道場は神聖な場所だぞ」
「う…ん。……ふあぁ。失礼。眠ってしまっていたのか……」

「片づけをするから待っていてくれ。家まで送ろう」
「いや、大丈夫だよ……手合いの約束をしていたろう?」

 目をこすりながら立ち上がる龍麻を兵庫は手で制した。
「精神状態は大事だ。そんなことでは怪我をするぞ」
「そうか……そうだな。じゃあお言葉に甘えて……悪いな」

 すまなそうな顔をする龍麻に兵庫は快活な笑いで返した。
「はっはっは。案ずるな。めったに頼らん奴に甘えられるのは、悪い気分ではない」
 微笑を返す龍麻。

 だから、彼といるとほっとするのだろう。



●如月翡翠●

 客の応対を済ませて部屋に戻ると、畳の上で龍麻は眠ってしまっている。

「龍麻」
「…………」
「龍麻。起きたまえ」
「…………」
 あどけない寝顔をさらけ出して龍麻は熟睡している。

「……水流尖!」
 飛水流お得意の術をいきなり龍麻に仕掛ける。
「うわっ!」
 さすがに龍麻も飛び起きた。

「すまない。起こしても反応がなかったもので。
 しかし、睡眠不足なのなら早く家に帰った方がいい」

 だからっていきなり術を食らわさなくても……とぶつぶついいながら鞄を手にする龍麻。

「……こっちの理性が保っているうちに、早く帰ってくれ……」

「ん? 如月、何か言った?」
「いや、別に」 



●アラン蔵人●

「Oh、寝てしまったのかい」
 うたた寝をしては風邪をひくだろう、とアランは龍麻を抱き上げてソファの方へ運んでいった。
 起こしてしまわないよう細心の注意を払いながら。

 幸い、安心しきって熟睡しているのか龍麻は目を覚ます様子もない。
 ソファに寝かせ、毛布を掛けてやると軽く寝返りをうった。

 そんな龍麻の髪にそっとアランは唇を押し当てる。
「君は、僕の故郷の日向の匂いがするよ……」

 今は失われてしまった、あの愛しい故郷の。



○織部雪乃○

「おまたせっ! ……って、寝ちまったのかよオイ」
 部活を終えて着替えて出てくると、龍麻は廊下に座り込んで眠ってしまっていた。

「ったく、こんなところで寝てたら女子にチェックされちまうぞ?」
 ひとりつぶやきながらしゃがみ込む。丁度龍麻と目線が合う高さ。
 どんな夢を見ているのか、すこし龍麻が笑った。

「ちぇっ。お幸せな奴だぜ。……本当に……」

 それは、オレもかも知れない。と思いながら。



○織部雛乃○

「あら、お疲れですのね……」
 眠ってしまっている龍麻にそっと上着を掛ける。

 再び弓の練習を始めるが、矢は的を大きくはずれてしまう。

 気が乱れてしまっている証拠だ。

「いけませんわ……」
 無意識に目が龍麻の方にいってしまう。
 これでは稽古にならない。

 弓を置き、眠っている龍麻の横に、少し距離を置いて座る。
 いつもなら恥ずかしくて直視できないが、眠っているときなら大丈夫。
 少しはしたない、とは思っているが。

「もうしばらく、眠ったまま……。こうさせて下さいね」



○マリィ・クレア○

「……あれ? 龍麻、寝ちゃった?」
 ふと気が付くと傍らで龍麻は幸せそうに寝息をかいている。

 少しの間考えた後、マリィはそっとその傍らで自分も猫のようにまるまった。
 メフィストも、それに続く。


 ……ここがマリィの一番安心できる場所。大切な場所。



●紅井猛●

「おーっす! 師匠!」
 やって来ると同時に大声を張り上げる。眠っていた龍麻はその大声に跳ね起きた。

「……なんだ……紅井か。あいかわらず無駄にテンションが高いな……」
「ん? なんだなんだ反応がわるいな師匠。そんなことでは悪は倒せないぞ?」
「……たった今まで寝ていたんだよ」
 起きしなに話しかけられても半分も頭に入ってこない。

「こんなに日も高いのに寝る奴があるか。
 ヒーローは常に早寝早起きを心がけるんだ! 俺っちなんか夜9時には寝てるぞ?」

「……まあ、夜九時以降にはヒーロー戦隊ものはやってないからな……」



●黒崎隼人●

 公園のベンチで本を読む。
 通りすがりに声をかけてくる知り合いには人差し指を口に当てる仕草だけで答える。 
 過ぎゆく人が自分の方を見て微笑っているような気がする。

「まったく……」

 少し苦笑しながら目線を下にやる。

 黒崎の膝の上で熟睡している龍麻。


「俺の黄金の足を枕代わりにするなんて、おまえくらいだぜ? ひーちゃん」 



○本郷桃香○

 何かが身体に触れる感覚に、ゆっくりと龍麻は目を覚ました。

「……?」
「あら、起こしちゃった? ごめんね、龍麻」

 そう言う桃香の手には、何故か巻き尺。
「……何をしているんだ?」
「もう終わったわよ。採寸。
 これであなたの衣装作成に取りかかれるわ」
「え。衣装って……」
「もちろんコスモグリーンの衣装に決まってるじゃないっ!
 期待していてね。素敵なものを作って上げるから。それじゃあね!」

「ま、まて桃香っ!」

 龍麻ピンチ。



●霧島諸羽●

 ふと気が付くと、横で龍麻が眠り込んでいた。
「あれ? 龍麻先輩?」
 熟睡に近く目覚める様子がない。

 ……こんなところで眠ってしまっては風邪をひいてしまう。
 起こすべきか。

 しかし、幸せそうな寝顔を見るとそれもままならない。
 寝かせておくべきか。

「あああああ、どうしよう……」



○舞園さやか○

「ごめん、舞園。五分だけ寝かせて……」
 言うと同時にその場に座り込み目を閉じる龍麻。
「……龍麻さん……」

 公園の木陰。せっかくの休日なのにこんな所に隠れるようにして。

 しばらく黙って側に座っていたさやかだったか、やがて、ひっそりと歌い出した。

 小さな、龍麻と自分にしか届かないような声で。
 今つかの間の休息を得ている彼に安らぎを願って。



●劉弦月●

「なぁ、アニキ、起きてえな」
 眠り込んでいる龍麻を揺り起こす。

 やがて、目を覚ます龍麻。寝起きのせいもあるが、表情が険しい。
「……なんだ、弦月。人の安眠を乱しておいて用がないなんて言うなよ」
「用なんかあらへん」

 あっさり。

「お前なぁ……」
「なんか寂しゅうなったから起こしたんや。……理由にならへんかな?」

 悪びれず言う劉に龍麻は苦笑した。
「まったく……弦月にはかなわないな……」



●壬生紅葉●

 静寂の中、突如鳴る携帯の音。
「はい、……はい。直ちに」
 電話を切って振り返ると先ほどまで眠っていた龍麻が起きだしている。
「ああ、すまない。起こしてしまったね」
「……いや、僕こそいつの間にか眠ってしまって。……『仕事』、か?」
 壬生は軽く頷くと箪笥から上着を取り出し、出かける準備を始めた。

「……僕はいつも壬生に頼り切ってばかりいるな。
けれど、僕は、君の支えになることはできないのか……?」

 目が合う。龍麻の言いたいことははっきりと分かっている。
「…………言ってくる。帰るのならば鍵をかけていってほしい」 
 扉を閉める音が空虚に部屋に鳴り響く。

 龍麻は知らないだけだ。
 支えになっているのは僕じゃない。頼り切っているのが、僕だ。
 この血にまみれた手に、闇に沈んだ心に唯一抱くことのできる、光。
それが君だということを。 



●村雨祇孔●

 ふと気が付くと、傍らで龍麻が眠っている。
「先生、寝ちまったのか?」
 反応がない。
 少し、龍麻の耳元に顔を近づけて、再び囁く。
「……先生」
 やはり反応がない。
「…………」


「うわあああぁっ!」
 跳ね起きる龍麻。瞬時に村雨から少し距離をとる。耳まで赤い。

「おはよう、先生」
「おはよう、じゃないっ! いきなりなにをするっ!」
「おや? 野郎のところでそんな無防備な寝顔を見せるって事は、
『何されてもかまわない』って意思表示だと思ったんだが」
 あくまでも飄々と答える村雨。

「……っ! 信じらんねぇ! 帰る!」
「ん? 帰るのか先生。じゃ、また、な」
「…………知らん!」

 村雨圧勝(笑)。



●御門晴明●

 龍麻がはっと気が付くと、そこには御門がいた。

 慌てて布団を跳ね上げて起きる。…………布団?

「おはようございます、龍麻さん。ずいぶんとよくお休みだったようで」
「寝てしまっていたのか……すまない」
「いえ、大変気持ちよく眠っていただいて結構ですよ。
 ……まあ、いつからこの館が仮眠所になったのかは知りませんでしたが」
「いや、だからすまなかったって」

 御門は扇を口元に当て、時計の方を見やった。
「もう逢魔が時です。早くお帰りになることをお薦めしますが」
 それだけいうと襖を開け、部屋を立ち去った。

 残された龍麻が傍らを見ると制服の上着がきちんとたたんで置いてある。
 よく見ると、部屋も訪問したときにいた場所とは、ちがっている。
 人の余り行き交わない奥の座敷。
「……本当に分かりづらいな、御門は……」



○芙蓉○

「ご主人様、起きて下さい」
 声をかける。
 しばらくしてうっすらと目を開くが、眼前に芙蓉を認めると、再び瞳を閉じた。
「……芙蓉か。……もう少し寝かせてくれ……」

「そういうわけには」
 しかしもう龍麻は再び寝息をたてている。
 ひとつ溜息をつきつつも再び起こす気にはなれなかった。

 ……本当は、御門が呼んでいるのだが。
 命令に背いていることに自身少し驚きを感じている芙蓉だが、
その表情が微笑みであることにはまだ気が付いてない。



○比良坂紗夜○

「龍麻……」
 小さく、小さく声をかける。
 少し寝返りをうったがそれが声をかけたせいかどうかはわからない。
 なにもない、なんということのない時間。

 だれけれども、自分には手にすることの無かったはずの時間。

「ねえ、龍麻。これから先、生きている方が辛いことが多いかも知れない。
 あのまま還ってこなかった方が幸せだったかも知れない。
 だけど、私は絶対に後悔だけはしないと、そう、誓える。永遠に、誓える」

 闇の中から連れ出してくれた貴方に。
 今のこの胸が詰まるほどの幸福を感じさせてくれる、貴方に。



○遠野杏子○

 激しい光を感じて龍麻は目を覚ました。
 目の前にいたのは杏子。しかも、手には光の根元と思われるカメラ。

「…………アン子。まさか……」
「いやあいい絵が撮れたわ。龍麻の寝顔写真! これを一面に載せたら売れるわよぉ!」
「げっ! ちょっとまてアン子!」
「今すぐ現像しなくっちゃ。まったね〜」
 足早に立ち去るアン子。

「……バカね。載せるわけ無いじゃないの」
 自分以外の人に見せるなんてもったいない。
 あたしだけのワンショット。



○マリア・アルカード○


「……龍麻、寝てしまったのね」

 傍らで眠る、龍麻の首筋にそって手を伸ばす。
「こんなに無防備に……」

 いま『力』をつかえばいとも簡単にマリアは龍麻の命を奪うことができるだろう。
 何ともたやすいことだ。
 彼は自分に対して何の警戒心も持ってはいない。
 首筋に触れた指から、龍麻の脈が感じ取れる。生の証。
 それが失われて只の人形と化すのがどれほどあっけないことかマリアは知っている。

 だけれども。

「もっと、人を疑うべきよ貴方は。……龍麻……」
 そっと手を離すとマリアはショールを龍麻にかけ、その場を去った。

 いつか、自分は彼を抹消する。
 しなければならない。

 だけど。
 だけれども。



●犬神杜人●

 何の気配もしないので振り返ると、龍麻は眠ってしまっていた。

「……人の家に押し掛けてきたかと思うと、今度は寝てしまうか……いい気なものだ」

 幸せそうな寝顔。
 何の挫折も、別れも知らないかのような。
 しかしそうではないことは、犬神も良く知っている。
 それでも、龍麻の日常には何の翳りも見つからない。

「そういえば昔、お前のような奴がいたな……」
 強がっているのでもなく、無神経なわけでもなく。
 痛みを受けてなお、自然体で前向きでいられるその心。

「まったく、どいつもこいつも」

 犬神は持っていた煙草の火を灰皿でもみけし、棚から秘蔵の酒を取りだした。

 これを肴に酒を飲むのも、たまには悪くない。



○天野絵莉○

「やだ、寝ちゃったの?」

 眠ってしまった龍麻の傍らに腰を下ろす。
「……本当に。寝ていると只の子供なんだから……」

 こうして表情を見ると彼が自分よりも八つも年下なのだということを思い知る。
 少々八つ当たり気味の腹いせに鼻をつまんでみるが
少し身じろぎする程度で起きる様子は無い。
 信頼しきっている証拠である。

「こんな子供にふりまわされちゃうんだから天野さんも堕ちたものだわ」

 そう言いながらも、少し嬉しそうに天野は龍麻の耳元に顔を近づけた。
「起きなさい、龍麻」 




〜おまけ〜
○秋月マサキ(馨)●

 返事がなかったので、振り返ると龍麻は側の木陰に腰を下ろして眠り込んでいた。
 気持ちよく眠っているので起こしたくない。
 そう思って、自分の膝掛けを龍麻にかけようとして、マサキは気が付いた。
 龍麻のいる場所はすこし坂になっている。
 ほんの少しの傾斜だが、そこには自分はたどり着けない。
 目と鼻の先にいる彼に、膝掛けをかけてあげることすらできない。
 マサキは、軽く唇を噛んだ。

 自分のしたことを間違っていたとは思っていない。
 後悔したことなら何度もあるが、
それでも、いつも最後にはこれで良かったのだと思い直した。
 未来をねじ曲げた事による、代償。
 これだけですんだことを幸運だと思わなければならない。
 それでも、今こんなに我儘になってしまう自分がいる。

「緋勇さん、そんなところで眠ってしまうと風邪をひきますよ」
 マサキの声でゆっくりと龍麻は目を開いた。
「ああ、ごめん。あまりに気持ちが良かったから。……秋月もこっちに来ないか?」
「またそんなことを……。車椅子ではそちらには行けませんよ」
 少し苦く笑う。

「車椅子なんていらないじゃないか。ほら」
 龍麻はマサキの所にやってくるといとも軽々とマサキを抱き上げた。
 そして自分が先ほどまでいた場所にマサキをおろし、自分もその横に腰掛ける。

「ほら、いい気持ちだろう?」

 ……そうやって、この人は、いつも。私のつまらないこだわりをあっさり捨ててしまう。


まとめてあとがき(笑)

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