段々と記憶が蘇る。 うっすらとカタチを作り始めていたジグソーパズルのピースは一つの言葉によって、まるで魔法のようにはっきりとその姿を現した。 遠坂凜。 凛。 そうだ、凜だ。 間違いない。嘗て自分を救ってくれた彼女だ。 迷いなくまっすぐと前を見据えるあの瞳。そしてその強い意志で。 ただ、一つの疑問がアーチャーの胸に湧き出でる。 しかし彼女はあんな顔を見せる少女だっただろうか? 頭に浮かぶ自分の記憶の中の彼女はいつも泣き出す一歩手前のような表情だ。 怒っている時も、笑っている時も。段々記憶が蘇る。 涙がこぼれ落ちるのを、必死で堪えている。 それが凛のいつも見せる表情だった。 ……違う。 それは、もっと後の話だ。 『今』という時代よりもずっと。 元々の彼女はああだったのだ。 泣きそうな顔にしてしまっていたのは、自分だ。 彼女が、大切だった。 何よりも護りたかった。 だけど。 自分は彼女を哀しませる事しか出来なかった。 特定の誰かではなく、すべてを守る『正義の味方』である道を選んだ自分にはそれは叶わなかった。 守るべき不特定多数の中の一人。 その中で、彼女は壊れていく自分の姿を最後まで見届けていた。 涙を堪えつつも、決してその涙を自分の前で流すことは無かった。 その後の彼女は知らない。 幸せになったのか、そうでないのか。 願い続けたこの時代に自分を喚んだのがよりにもよって彼女とは、なんという皮肉。 そして自分が持つこの欲望 ―――自分殺しへの――― がある限り、いずれ彼女を苦しめる事は明白だ。 サーヴァントはマスターを護る者なのに。 なんと勝手な、なんと利己的な。 これが、『正義の味方』を信じ、目指した愚かな男のなれの果て。 だけど。 こんな勝手な自分にもなにかを願うことが許されるのならば。 君に幸せを。 笑顔を。 その真摯な眼差しかエミヤなどと言う愚か者の為に曇ってしまわぬよう。 それが勝手極まりない願いであることは百も承知だ。 しかしそれでもなお。 かつて『正義の味方』を目指していた頃と、唯一何一つ変わらないこの願いを。 聖杯などとには託す事の出来ない、この願いを。 どうか。 |